天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第7章 第三話〝凌霄花(のうぜんかずら)〟・蜜月
蜜月
一面にひろがる蓮の花が初夏の風に優しくそよぐ。傍らにいる大切な男(ひと)がそっと微笑む。
深い瞳は幾億の夜を集めたよりも更に深く、夏の夜空に点る星々の煌めきを映したように輝いている。
その男性(ひと)は八重の肩を抱いて―。
「―え、八重」
物想いに耽っていた八重を、焦れったそうな声が現実に呼び戻した。それでもまだ反応しない八重に、ついに清冶郞が苛立ちを含んだ声を上げる。
「八重ッ」
「は、はいっ」
八重は慌てて恍惚(うつと)りと閉じていた瞳をまたたかせた。
「そなたは、一体、私の申すことをちゃんと聞いておるのか」
清冶郞は呆れたような顔で八重を見つめている。形の良い額や整った鼻筋、すっと切れ上がった二重の眼(まなこ)は、いずれも八重が先刻、白昼夢で思い描いていたあの男にそっくりで、八重は惚れた男と瓜二つの清冶郞に真正面から見つめられ、うっすらと頬を上気させる。
「最近の八重は何だか変だ」
清冶郞はそんな八重を不機嫌に見つめ、独りごちた。
「そ、そのようなことはございませぬ。八重は別に何も―」
言いかけた八重に清冶郞は意味ありげな視線を向けた。
「幾ら私が話しかけても、今のようにまるで上の空で、何か別のことばかり考えておるようだ」
「それは、清冶郞さまのお考え違いというものにございましょう」
八重がしどろもどろになって言うのに、清冶郞は苦笑した。
一面にひろがる蓮の花が初夏の風に優しくそよぐ。傍らにいる大切な男(ひと)がそっと微笑む。
深い瞳は幾億の夜を集めたよりも更に深く、夏の夜空に点る星々の煌めきを映したように輝いている。
その男性(ひと)は八重の肩を抱いて―。
「―え、八重」
物想いに耽っていた八重を、焦れったそうな声が現実に呼び戻した。それでもまだ反応しない八重に、ついに清冶郞が苛立ちを含んだ声を上げる。
「八重ッ」
「は、はいっ」
八重は慌てて恍惚(うつと)りと閉じていた瞳をまたたかせた。
「そなたは、一体、私の申すことをちゃんと聞いておるのか」
清冶郞は呆れたような顔で八重を見つめている。形の良い額や整った鼻筋、すっと切れ上がった二重の眼(まなこ)は、いずれも八重が先刻、白昼夢で思い描いていたあの男にそっくりで、八重は惚れた男と瓜二つの清冶郞に真正面から見つめられ、うっすらと頬を上気させる。
「最近の八重は何だか変だ」
清冶郞はそんな八重を不機嫌に見つめ、独りごちた。
「そ、そのようなことはございませぬ。八重は別に何も―」
言いかけた八重に清冶郞は意味ありげな視線を向けた。
「幾ら私が話しかけても、今のようにまるで上の空で、何か別のことばかり考えておるようだ」
「それは、清冶郞さまのお考え違いというものにございましょう」
八重がしどろもどろになって言うのに、清冶郞は苦笑した。