天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第1章 第一話〝招き猫〟―旅立ち―
「増田屋さんが出入りしているのは、木檜藩三万石木檜嘉亨(よしゆき)さまのお屋敷だ。木檜さまといえば、和泉橋町に大きなお屋敷を構えていらっしゃる。上屋敷には現在、参勤で在府中のお殿さまとお世継ぎの若君さまがいらっしゃるそうな。その七歳になる若君さまが生来ご病弱、守役や乳母にでさえお心を開かない状態で、皆さま、お困りだそうだ。その若君さまのお身の回りのお世話をする女中を今、上屋敷の方で探しているとかで、増田屋さんも適当な娘がいればと頼まれたらしい」
「そんな―、それでは余計に私なんかに務まるお役目ではありませんでしょうに」
弥栄は困惑して、視線を揺らした。
「そんな―、それでは余計に私なんかに務まるお役目ではありませんでしょうに」
弥栄は困惑して、視線を揺らした。