天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第1章 第一話〝招き猫〟―旅立ち―
「あちらさまが探しているのは、お身の回りのお世話とはいうが、実はお淋しい若君さまのお心を慰め、お話相手になることのできる奥女中なんだよ。そのようなことのできる娘であれば、機転も利き、しかも心優しくなくてはならない。おまけに、お前は辛抱強い。私は、お前にはうってつけの役だと思うが」
「でも」
弥栄がなおも言おうとすると、弐兵衛はコホンと小さな咳払いをした、
「弥栄、私はこれでも、お前のために精一杯良いと思う身の落ち着け先を探したつもりだよ。ともかく進むべき道は用意した。後は、お前の才覚次第で運を掴みなさい」
弥栄は視線を力なくうつろわせた。
幼いときから、内気で自分の気持ちを表現するのが下手だった。内向的で人と話をするのも付き合うのも苦手な自分に、御殿奉公―しかも病弱で誰にも心を開こうとしない若君の話し相手が務まるはずがないではないか!
弐兵衛の話を聞く限り、件(くだん)の若君は実は弥栄とよく似ているような気がしてならない。元々、話し下手で、人と打ち解けるのが苦手な質なのではないか。病気がちだというが、生まれたときからずっと傍にいる乳母や守役にでさえ心を開かぬというのであれば、それは病のせいというよりは、元々の性格が関係していると考えた方が良いような気がした。
そんな若君が懐いてくれるほど、弥栄は子ども好きでもないし、子どもの扱いが上手くもない。第一、弟妹のおらぬ弥栄は幼い子どもと共に遊んだことさえないのだ。
―無理だ、やっぱり、どう考えたって無理な話だ。
弥栄がそう言って断ろうとしたその時、弐兵衛が先に口を開いた。
「でも」
弥栄がなおも言おうとすると、弐兵衛はコホンと小さな咳払いをした、
「弥栄、私はこれでも、お前のために精一杯良いと思う身の落ち着け先を探したつもりだよ。ともかく進むべき道は用意した。後は、お前の才覚次第で運を掴みなさい」
弥栄は視線を力なくうつろわせた。
幼いときから、内気で自分の気持ちを表現するのが下手だった。内向的で人と話をするのも付き合うのも苦手な自分に、御殿奉公―しかも病弱で誰にも心を開こうとしない若君の話し相手が務まるはずがないではないか!
弐兵衛の話を聞く限り、件(くだん)の若君は実は弥栄とよく似ているような気がしてならない。元々、話し下手で、人と打ち解けるのが苦手な質なのではないか。病気がちだというが、生まれたときからずっと傍にいる乳母や守役にでさえ心を開かぬというのであれば、それは病のせいというよりは、元々の性格が関係していると考えた方が良いような気がした。
そんな若君が懐いてくれるほど、弥栄は子ども好きでもないし、子どもの扱いが上手くもない。第一、弟妹のおらぬ弥栄は幼い子どもと共に遊んだことさえないのだ。
―無理だ、やっぱり、どう考えたって無理な話だ。
弥栄がそう言って断ろうとしたその時、弐兵衛が先に口を開いた。