天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第7章 第三話〝凌霄花(のうぜんかずら)〟・蜜月
「何故、ここにお尚の名が出てくる。あれとそなたには何の拘わりもない。身分違いというのであれば、そなたを誰ぞの養女にして釣り合いを取れば良いだけの話ではないか。そなたの身許がどうあれ、私のこの気持ちは変わらぬ。帰る場所がないというなら、これからは、ここがそなたの居場所だと思えば良いではないか。私の妻になれば、そなたの家はここになる。私の傍がそなたの居るべき場所になるのだから、そなたはずっとここにいれば良い」
八重の眼に涙が溢れた。恋い慕った嘉亨からの求婚、更には自分の傍が八重の居るべき場所だとまで言ってくれた。そのことに、嬉しさが込み上げてきたのだ。
惚れた男の傍が自分の帰ってゆく場所になるというのなら、これほど嬉しいことはない。
「家がないなら、作れば良い。夫婦(めおと)になれば、そなたには新しい家ができる。清冶郞と三人で良き家庭を作ってゆこうではないか」
八重は滲んできた涙をそっと手のひらでぬぐい、頷いた。
「少し考えさせて頂けませんでしょうか」
「あい判った。返事は急がぬ。ゆるりと考えるが良い」
嘉亨は静かな声音で言う。八重に注ぐそのまなざしは優しい。
また風が吹き抜け、蓮の花が揺れた。
嘉亨は眩しげに眼を細め、その光景を眺める。八重もまたふた色の睡蓮を眺める。それからは二人、いつものように何を話すでもなく、ただ寄り添って蓮の花を眺めて時を過ごした。
八重の眼に涙が溢れた。恋い慕った嘉亨からの求婚、更には自分の傍が八重の居るべき場所だとまで言ってくれた。そのことに、嬉しさが込み上げてきたのだ。
惚れた男の傍が自分の帰ってゆく場所になるというのなら、これほど嬉しいことはない。
「家がないなら、作れば良い。夫婦(めおと)になれば、そなたには新しい家ができる。清冶郞と三人で良き家庭を作ってゆこうではないか」
八重は滲んできた涙をそっと手のひらでぬぐい、頷いた。
「少し考えさせて頂けませんでしょうか」
「あい判った。返事は急がぬ。ゆるりと考えるが良い」
嘉亨は静かな声音で言う。八重に注ぐそのまなざしは優しい。
また風が吹き抜け、蓮の花が揺れた。
嘉亨は眩しげに眼を細め、その光景を眺める。八重もまたふた色の睡蓮を眺める。それからは二人、いつものように何を話すでもなく、ただ寄り添って蓮の花を眺めて時を過ごした。