天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第7章 第三話〝凌霄花(のうぜんかずら)〟・蜜月
八重が蒼白になっていると、嘉亨が八重を気遣わしげに見つめた。
「愚か者めが」
乾いた音が聞こえる。
最初、八重は何が起こったのか判らなかった。ハッと我に返った時、清冶郞の小さな身体がくずおれ、清冶郞は右手で頬を押さえていた。
嘉亨の端整な貌が烈しい怒りに染まっている。
「そちの今の言葉は八重を愚弄するものだ。利発なそなたのこと、そのようなことは千万承知であろう。そなたは八重を姉のように慕うておるのではないか。八重を大切に思うておるのであろう。その八重に対して何ゆえ、そのような物言いをする?」
と、清冶郞が打たれた頬を押さえたまま、掬い上げるような視線で嘉亨を見上げた。
これほどまでに怒りを露わにした嘉亨を見たのも初めてであれば、父である嘉亨に反抗的な清冶郞を見るのも初めてだ。
八重は自分が元でこのような父子喧嘩になってしまい、もうどうしたら良いか皆目見当もつかない。
「父上も八重も汚い。二人だけで私の見ておらぬ場所でこそこそして、私が何も知らぬと思うておいでにございますか。それに、八重は私の姉ではございませぬ。ましてや、母上でもない。いつかも申し上げたごとく、私は八重を妻に迎えたいと思うております。その私の心をお知りになられながら、父上は私に八重を姉と仰せになるのでございますか!」
清冶郞が振り絞るように叫ぶ。
「清冶郞、そなた、自分が幾つか判っておるのか? 幾らそちが背伸びしようと、八重とそなたが夫婦になれるはずもない。そちが八重に惹かれる気持ちは同じ男として判らぬでもないが、歳が違いすぎる。八重のことは諦めよ」
「愚か者めが」
乾いた音が聞こえる。
最初、八重は何が起こったのか判らなかった。ハッと我に返った時、清冶郞の小さな身体がくずおれ、清冶郞は右手で頬を押さえていた。
嘉亨の端整な貌が烈しい怒りに染まっている。
「そちの今の言葉は八重を愚弄するものだ。利発なそなたのこと、そのようなことは千万承知であろう。そなたは八重を姉のように慕うておるのではないか。八重を大切に思うておるのであろう。その八重に対して何ゆえ、そのような物言いをする?」
と、清冶郞が打たれた頬を押さえたまま、掬い上げるような視線で嘉亨を見上げた。
これほどまでに怒りを露わにした嘉亨を見たのも初めてであれば、父である嘉亨に反抗的な清冶郞を見るのも初めてだ。
八重は自分が元でこのような父子喧嘩になってしまい、もうどうしたら良いか皆目見当もつかない。
「父上も八重も汚い。二人だけで私の見ておらぬ場所でこそこそして、私が何も知らぬと思うておいでにございますか。それに、八重は私の姉ではございませぬ。ましてや、母上でもない。いつかも申し上げたごとく、私は八重を妻に迎えたいと思うております。その私の心をお知りになられながら、父上は私に八重を姉と仰せになるのでございますか!」
清冶郞が振り絞るように叫ぶ。
「清冶郞、そなた、自分が幾つか判っておるのか? 幾らそちが背伸びしようと、八重とそなたが夫婦になれるはずもない。そちが八重に惹かれる気持ちは同じ男として判らぬでもないが、歳が違いすぎる。八重のことは諦めよ」