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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第7章 第三話〝凌霄花(のうぜんかずら)〟・蜜月

「父上はいつもそのようにして私を子ども扱いなされる。年齢? そのようなもの、何とでもなりまする。八重は十七、私は八つだ。今は十七と八つでは違いすぎるように思われるかもしれませぬが、七年後には私は十五、八重は二十四になります。そのときであれば、誰からも大人と子どもだと後ろ指をさされる憶えはございませんでしょう。現にお祖父(じじ)さまのご正室でいらっしゃった敬行院さまは、お祖父さまより八つか七つは年上でおわされたはず。私と八重とさしたる違いはございませぬ」
 敬行院というのは、先代藩主嘉嘉孝(よしたか)の正室である。仙台伊達藩主の姫であり、確かに夫君嘉孝よりは八歳年長の妻であった。良人嘉孝との間に御子がなかったことから、側室の生んだ嘉亨を引き取り、手許で育てたという経緯がある。嘉亨が父嘉孝の急逝に伴い、十一歳で藩主の座についた後も、幼君の後見として力を尽くした。
 ちなみに、敬仰院は嘉亨が最初の正室を迎えるに当たって、下屋敷に移っている。
「それとも、父上。父上が私と八重の歳が違いすぎると仰せなのは、他に何か理由でもおありなのでございますか? 父上が私と八重の仲を認めぬと仰せになられるその魂胆が知りとうございます」
 含んだ物言いで嘉亨を見つめた清冶郞の袖を八重が後ろからそっと引いた。
「清冶郞君。殿に対してお口が過ぎましょう」
 暗に控えるようにと進言したのだが、清冶郞はいっかな聞き入れる風はない。
 しかし、こういった頑固というか、他人の言葉に耳を貸さないところは嘉亨も清冶郞も実によく似ている。酷似しているのは整いすぎるほど整った容貌だけではない。
「何だと、もう一度、申してみよ」
 案の定、更に貌を朱に染めた嘉亨が手を振り上げた。

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