天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第7章 第三話〝凌霄花(のうぜんかずら)〟・蜜月
「殿、お止め下さりませ。どうか、どうか、お許し下さりませ」
八重が嘉亨の脚に取り縋る。
「どうか、この場はおとどまり下さいませ。若君さまもお心からこのようなことを殿に仰せになったのではございませぬゆえ」
八重が平身低頭して繰り返し謝る。
しばらく無表情に立ち尽くしていたかと思うと、やがて嘉亨は何も言わず席を立った。
襖が荒々しく閉まる。こんなこともかつてないことだ。大体、怒りにしろ歓びにしろ、嘉亨という人は滅多に感情を表に出さないのだ。
嘉亨が出ていった後、八重は慌てて清冶郞を助け起こした。
「大丈夫でございますか? どこかお怪我はございませぬか」
清冶郞の頬は痛々しく腫れ上がっている。
清冶郞の持病は、ひとたび出血すれば、血が止まらなくなることもあるという厄介なものだ。そのことを父である嘉亨が知らぬはずはないし、現に嘉亨は息子の病を誰より普段から案じている。その嘉亨がそのことも忘れ果て清冶郞を殴ったのは、まさにそこまで怒りに我を忘れていたということでもあった。
八重はすぐに盥と手ぬぐいを用意し、冷たい水に浸した手ぬぐいで清冶郞の頬を冷やす。その間にも清冶郞の手や脚を隈無く見て回り、他に怪我がないかどうかを念入りに確かめた。
清冶郞の場合、たとえ小さな切り傷、すりでも生命取りになりかねないのだと、春日井からよくよく言い聞かされている。
幸いにも他に怪我らしい怪我はなく、八重はホッと胸撫で下ろした。そこの辺りは嘉亨も手加減はしたのだろう。
八重は頬に当てる手ぬぐいを代えてやりながら、清冶郞にわざと怖い顔をして見せた。
「若君さま、何ゆえ、お父上さまにあのようなことを仰せになったのでございますか?」
八重が嘉亨の脚に取り縋る。
「どうか、この場はおとどまり下さいませ。若君さまもお心からこのようなことを殿に仰せになったのではございませぬゆえ」
八重が平身低頭して繰り返し謝る。
しばらく無表情に立ち尽くしていたかと思うと、やがて嘉亨は何も言わず席を立った。
襖が荒々しく閉まる。こんなこともかつてないことだ。大体、怒りにしろ歓びにしろ、嘉亨という人は滅多に感情を表に出さないのだ。
嘉亨が出ていった後、八重は慌てて清冶郞を助け起こした。
「大丈夫でございますか? どこかお怪我はございませぬか」
清冶郞の頬は痛々しく腫れ上がっている。
清冶郞の持病は、ひとたび出血すれば、血が止まらなくなることもあるという厄介なものだ。そのことを父である嘉亨が知らぬはずはないし、現に嘉亨は息子の病を誰より普段から案じている。その嘉亨がそのことも忘れ果て清冶郞を殴ったのは、まさにそこまで怒りに我を忘れていたということでもあった。
八重はすぐに盥と手ぬぐいを用意し、冷たい水に浸した手ぬぐいで清冶郞の頬を冷やす。その間にも清冶郞の手や脚を隈無く見て回り、他に怪我がないかどうかを念入りに確かめた。
清冶郞の場合、たとえ小さな切り傷、すりでも生命取りになりかねないのだと、春日井からよくよく言い聞かされている。
幸いにも他に怪我らしい怪我はなく、八重はホッと胸撫で下ろした。そこの辺りは嘉亨も手加減はしたのだろう。
八重は頬に当てる手ぬぐいを代えてやりながら、清冶郞にわざと怖い顔をして見せた。
「若君さま、何ゆえ、お父上さまにあのようなことを仰せになったのでございますか?」