天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第7章 第三話〝凌霄花(のうぜんかずら)〟・蜜月
「今日のことで、父上は今度こそ私を本当にお嫌いになってしまわれたかもしれぬな」
いつもなら、怖い顔をして怒って見せると、子ども扱いすると膨れる清冶郞である。しかし、今日はその余裕もなく、ただしゅんとうなだれているだけだ。
大好きな父に嫌われるのは、清冶郞にとっては辛いことなのだ。清冶郞の黒い大きな瞳に涙の雫が宿っている。
八重は、その涙に胸を衝かれる。
「でも、私は自分の本当の気持ちを申し上げたんだよ。八重、私の気持ちは変わらない。十五になったら、たとえいかほど反対されようと、八重を妻に迎えたいと父上に改めて申し上げるつもりだ」
清冶郞はしゃくり上げながら繰り返す。八重は、到底、嘉亨に求婚されたことなど清冶郞に言えはしないと思う。
一体、自分はどうすれば良いのか。
清冶郞の今の気持ちは清冶郞なりに真剣であることは判るけれど、まだ八歳の少年の想いをそのまま本気で受け取るわけにはゆかない。八重にしてみれば、年上の女に対する憧憬を清冶郞が異性への恋情と勘違いしているだけなのだと思っているのだが。
それに、先刻の清冶郞の言葉も八重には気になっていた。
―父上も八重も汚い。二人だけで私の見ておらぬ場所でこそこそして、私が何も知らぬと思うておいでにございますか。
あの言葉は、清冶郞の勉学の時間のことを言っているのではないかと思う。清冶郞が表で神納甚左衛門に教えを請うている間、嘉亨が奥向きを訪れ、八重と共に過ごしているのを指しているのだろう。
清冶郞も確かに本人の言うように、いつまでも童ではない。八歳といえば、感じやすい年頃だろう。人を好きになることもあれば、そういった男女のことに潔癖になることだってある。
いつもなら、怖い顔をして怒って見せると、子ども扱いすると膨れる清冶郞である。しかし、今日はその余裕もなく、ただしゅんとうなだれているだけだ。
大好きな父に嫌われるのは、清冶郞にとっては辛いことなのだ。清冶郞の黒い大きな瞳に涙の雫が宿っている。
八重は、その涙に胸を衝かれる。
「でも、私は自分の本当の気持ちを申し上げたんだよ。八重、私の気持ちは変わらない。十五になったら、たとえいかほど反対されようと、八重を妻に迎えたいと父上に改めて申し上げるつもりだ」
清冶郞はしゃくり上げながら繰り返す。八重は、到底、嘉亨に求婚されたことなど清冶郞に言えはしないと思う。
一体、自分はどうすれば良いのか。
清冶郞の今の気持ちは清冶郞なりに真剣であることは判るけれど、まだ八歳の少年の想いをそのまま本気で受け取るわけにはゆかない。八重にしてみれば、年上の女に対する憧憬を清冶郞が異性への恋情と勘違いしているだけなのだと思っているのだが。
それに、先刻の清冶郞の言葉も八重には気になっていた。
―父上も八重も汚い。二人だけで私の見ておらぬ場所でこそこそして、私が何も知らぬと思うておいでにございますか。
あの言葉は、清冶郞の勉学の時間のことを言っているのではないかと思う。清冶郞が表で神納甚左衛門に教えを請うている間、嘉亨が奥向きを訪れ、八重と共に過ごしているのを指しているのだろう。
清冶郞も確かに本人の言うように、いつまでも童ではない。八歳といえば、感じやすい年頃だろう。人を好きになることもあれば、そういった男女のことに潔癖になることだってある。