天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第7章 第三話〝凌霄花(のうぜんかずら)〟・蜜月
「当然ではございませぬか。人の口に戸は立てられぬと申します。それに、数日に一度いそいそと奥向きにお渡りになり、決まった奥女中を伴に一刻余りもお庭で過ごされるなど、どう考えても尋常ではござりませぬ。殿の御意がその者にあると考えるのがごく自然でございましょう」
「いや、それは私も別段、八重とのことを隠し立てするつもりはないが」
嘉亨は曖昧な言葉で言い逃れると、小さな吐息を吐く。隠し立てするつもりはないが、皆に知られているとも考えていなかった嘉亨である。やはり、自分はどこか頭の捻子が緩んでいるのだろうかと、真剣に悩みたくなってきた。
「今日も清冶郞君とご一緒のご会食の場に、八重も同席させなさったとか」
奥向きを取り締まる春日井の耳には何でも筒抜けらしい。
嘉亨は、自分もまたわざとらしく大きな溜息をついてやった。
「別に同席させたわけではない。八重は給仕として傍に控えさせておった」
が、給仕のためならば、嘉亨や清冶郞と同室ではなく、次の控えの間に待機していたはずである。同じ部屋にいたところが単なる給仕のための侍女に対する扱いではない。しかも、部屋には八重のための膳もちゃんと準備されていた。
しかし、春日井は敢えてそれを指摘はせず、したり顔で言った。
「水入らずでお食事をお取りになるなぞ、まるで、はや、ご家族のようにお見えになられまするな」
やや皮肉っぽい口調に聞こえたのは、嘉亨の気の回しすぎだろうか。
「それほどに八重をお気に召したのであれば、早うに祝言をお挙げになればよろしいのに」
「清冶郞は八重を慕って、妻にと望んでおるほどなのだ」
「いや、それは私も別段、八重とのことを隠し立てするつもりはないが」
嘉亨は曖昧な言葉で言い逃れると、小さな吐息を吐く。隠し立てするつもりはないが、皆に知られているとも考えていなかった嘉亨である。やはり、自分はどこか頭の捻子が緩んでいるのだろうかと、真剣に悩みたくなってきた。
「今日も清冶郞君とご一緒のご会食の場に、八重も同席させなさったとか」
奥向きを取り締まる春日井の耳には何でも筒抜けらしい。
嘉亨は、自分もまたわざとらしく大きな溜息をついてやった。
「別に同席させたわけではない。八重は給仕として傍に控えさせておった」
が、給仕のためならば、嘉亨や清冶郞と同室ではなく、次の控えの間に待機していたはずである。同じ部屋にいたところが単なる給仕のための侍女に対する扱いではない。しかも、部屋には八重のための膳もちゃんと準備されていた。
しかし、春日井は敢えてそれを指摘はせず、したり顔で言った。
「水入らずでお食事をお取りになるなぞ、まるで、はや、ご家族のようにお見えになられまするな」
やや皮肉っぽい口調に聞こえたのは、嘉亨の気の回しすぎだろうか。
「それほどに八重をお気に召したのであれば、早うに祝言をお挙げになればよろしいのに」
「清冶郞は八重を慕って、妻にと望んでおるほどなのだ」