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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第7章 第三話〝凌霄花(のうぜんかずら)〟・蜜月

 嘉亨は苦渋に満ちた表情で言う。
 春日井は小さく首を振った。
「それは、単にお母君さまのおられぬお淋しさを八重を求めることで紛らわせていらっしゃるのでございましょう」
「判っておる。さりながら、私が八重を妻に迎えるなぞと申せば、清冶郞が承伏すまい。清冶郞の心を傷つけてまで、己れの想いを遂げる勇気が私にはないのだ」
「まァ、それでは待たされる女の身はいかがなりましょう。そのような悠長なことを仰せでは、いつかどこぞの男に八重を攫われておしまいになりますよ」
 赤児の頃からの付き合いだけに、物言いも歯に衣着せず容赦ない。
「私は説教を聞きにきたわけではないぞ。申したきことがそれだけならば、もう表に戻る。このようなことならば、そなたの許に立ち寄らず、真っすぐ表に戻れば良かったわ」
 嘉亨は苦笑いしながら立ち上がる。

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