天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第8章 哀しい別離
哀しい別離
清冶郞と嘉亨の間は、その後、表面上は何事もなく過ぎていった。嘉亨は自重しているらしく、以前のように頻繁に八重を庭に伴うことはなくなった。嘉亨なりに幼い息子を感情に任せて殴ってしまったことは、こたえているようだ。
それでも、十日に一度、八重はやはり嘉亨の伴をして庭をそぞろ歩く。ひと月に数度の逢瀬ではあったが、八重は嘉亨との恋をゆっっくりと育んでいった。
水無月から文月に変わったばかりのある日のこと、常のように神納甚左衛門が上屋敷を訪れ、清冶郞は表の座敷へと赴いた。清冶郞と入れ替わりに嘉亨が奥向きへと渡り、八重はその日、十日ぶりに嘉亨と二人だけで過ごした。
相も変わらず、ただ寄り添い合って庭の花を見つめるだけの不器用な二人ではあったけれど、八重にとっては、そんな静かな恋の語らいも幸せなひとときである。
庭の蓮池はまだまだその眺めを愉しめる。その日も咲き誇る蓮の花や色も深まってきた紫陽花を堪能して戻ってきた二人であった。
清冶郞の部屋に戻り、いつもなら嘉亨は時間に少し余裕のあるところで表に戻ってゆく。それは、清冶郞と鉢合わせするのを避けるためでもある。
嘉亨が清冶郞に八重との結婚について話す機会を窺っていることは、八重にもよく判った。話してしまえば簡単なことなのかもしれないが、先日の清冶郞の激し様を目の当たりにしている嘉亨にとっては、なかなか言い出せないのだろう。そんな嘉亨を春日井は優柔不断と見ているようだが、父である嘉亨の立場からすれば、自分の再婚を容易に息子に話せないのは当然ではないかと八重は思う。
清冶郞と嘉亨の間は、その後、表面上は何事もなく過ぎていった。嘉亨は自重しているらしく、以前のように頻繁に八重を庭に伴うことはなくなった。嘉亨なりに幼い息子を感情に任せて殴ってしまったことは、こたえているようだ。
それでも、十日に一度、八重はやはり嘉亨の伴をして庭をそぞろ歩く。ひと月に数度の逢瀬ではあったが、八重は嘉亨との恋をゆっっくりと育んでいった。
水無月から文月に変わったばかりのある日のこと、常のように神納甚左衛門が上屋敷を訪れ、清冶郞は表の座敷へと赴いた。清冶郞と入れ替わりに嘉亨が奥向きへと渡り、八重はその日、十日ぶりに嘉亨と二人だけで過ごした。
相も変わらず、ただ寄り添い合って庭の花を見つめるだけの不器用な二人ではあったけれど、八重にとっては、そんな静かな恋の語らいも幸せなひとときである。
庭の蓮池はまだまだその眺めを愉しめる。その日も咲き誇る蓮の花や色も深まってきた紫陽花を堪能して戻ってきた二人であった。
清冶郞の部屋に戻り、いつもなら嘉亨は時間に少し余裕のあるところで表に戻ってゆく。それは、清冶郞と鉢合わせするのを避けるためでもある。
嘉亨が清冶郞に八重との結婚について話す機会を窺っていることは、八重にもよく判った。話してしまえば簡単なことなのかもしれないが、先日の清冶郞の激し様を目の当たりにしている嘉亨にとっては、なかなか言い出せないのだろう。そんな嘉亨を春日井は優柔不断と見ているようだが、父である嘉亨の立場からすれば、自分の再婚を容易に息子に話せないのは当然ではないかと八重は思う。