天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第8章 哀しい別離
そのときの、おさんの明るい笑顔が八重には実に印象的だった。良い意味で吹っ切れたというのか、すべてを吹っ切って生きてきたからこそ成功を掴み取った女の強さ、したたかさが如実に表れていた。
「あたしが見たところ、あの色男は、かなりの身分のお侍だろう。木檜さまにお仕えする高禄の重臣と見た。男ぶりも上々吉だが、あの存在感は並じゃアない」
そこで、しばらく口を噤む。
「まさか、お殿さまだなんてことはないよね」
おさんは八重を一瞬、惚(ほう)けたように見つめ、それから爆笑した。
「お見事! どんな手練手管でお殿さまを誑(たら)し込んだかは判らないけど―ご免よ、どうも口が悪くって」
おさんは笑いながら言い直した。
「仮にも一国のお殿さまが八重ちゃんを見初めたっていうのは凄いじゃないか。それも、屋敷を出たお弥栄ちゃんを追いかけてまで来るなんて」
「そんなんじゃないんです。私―」
そこで、八重は顔を両手で覆った 。
その日、八重は初めておさんに事の詳細を話すに及んだ。二日前、自分を訪ねてきた男がおさんの睨んだとおり、木檜藩主木檜嘉亨であること、八重が仕えていたのは、嘉亨の嫡男清冶郞であったこと、清冶郞の抱えていた病も包み隠さず話した。
おさんは余計な話は一切挟まず、ただ黙って八重の話に耳を傾けた。
すべてを聞き終えた時、おさんは幾度も頷いて、湧き出た涙を袖でぬぐっていた。
「それはお気の毒なことだったねぇ。お殿さまもさぞかし気を落とされたことだろう。子が親より先に逝くなんて、これくらい哀しいことはないから。お八重ちゃんも辛い想いをしたってことだ」
「あたしが見たところ、あの色男は、かなりの身分のお侍だろう。木檜さまにお仕えする高禄の重臣と見た。男ぶりも上々吉だが、あの存在感は並じゃアない」
そこで、しばらく口を噤む。
「まさか、お殿さまだなんてことはないよね」
おさんは八重を一瞬、惚(ほう)けたように見つめ、それから爆笑した。
「お見事! どんな手練手管でお殿さまを誑(たら)し込んだかは判らないけど―ご免よ、どうも口が悪くって」
おさんは笑いながら言い直した。
「仮にも一国のお殿さまが八重ちゃんを見初めたっていうのは凄いじゃないか。それも、屋敷を出たお弥栄ちゃんを追いかけてまで来るなんて」
「そんなんじゃないんです。私―」
そこで、八重は顔を両手で覆った 。
その日、八重は初めておさんに事の詳細を話すに及んだ。二日前、自分を訪ねてきた男がおさんの睨んだとおり、木檜藩主木檜嘉亨であること、八重が仕えていたのは、嘉亨の嫡男清冶郞であったこと、清冶郞の抱えていた病も包み隠さず話した。
おさんは余計な話は一切挟まず、ただ黙って八重の話に耳を傾けた。
すべてを聞き終えた時、おさんは幾度も頷いて、湧き出た涙を袖でぬぐっていた。
「それはお気の毒なことだったねぇ。お殿さまもさぞかし気を落とされたことだろう。子が親より先に逝くなんて、これくらい哀しいことはないから。お八重ちゃんも辛い想いをしたってことだ」