天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第1章 第一話〝招き猫〟―旅立ち―
お智は店の手伝いをよくしており、客として偶然店に立ち寄った蝋燭問屋の若旦那と相惚れの仲になった。
「そんなに気軽にお宿下がりできるものなのかしら」
弥栄が心細げに呟く。
「それもそうねぇ」
はしゃいでいたお智も途端に不安げな表情になった。
「三万石のお大名のお屋敷での生活なんて、私には到底想像もつかないわ。お弥栄ちゃん、本当に何だか私とは違う世界の人になっちゃうみたいね」
どこか淋しそうに言うお智に、弥栄は笑った。
「武家屋敷での生活っていったって、別に私はお女中としてご奉公に上がるんだもの。そりゃあ、私たち庶民の生活とは全然違うんでしょうけど、あくまでもお殿さまにお仕えする立場にすぎないのよ」
「それもそうね。でも、お弥栄ちゃん、絶対に時々は手紙をちょうだいね」
切り替えが早いのも、お智の長所というか特長である。美人というタイプではないが、ふっくらとした丸顔には愛敬があり、瞳はいつも好奇心に生き生きと輝いていた。弥栄と異なり、朗らかな性格で、誰とでもすぐに親密になれるのだ。恐らく、お智にひとめで惚れたという若旦那も、そんなのびやかさに惹かれたのだろう。
お智なら、嫁いでも良い女房、蝋燭問屋の若内儀になれるはずだ。正反対の気性ゆえに余計に仲良くなれたのかもしれないが、弥栄は、お智には幸せになって貰いたかった。
そのときのことだった。
弥栄はふと脚許に光るものを見たような気がして、しゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
お智が愕いて声を上げる。
弥栄は拾い上げたものを手のひらに載せた。
「そんなに気軽にお宿下がりできるものなのかしら」
弥栄が心細げに呟く。
「それもそうねぇ」
はしゃいでいたお智も途端に不安げな表情になった。
「三万石のお大名のお屋敷での生活なんて、私には到底想像もつかないわ。お弥栄ちゃん、本当に何だか私とは違う世界の人になっちゃうみたいね」
どこか淋しそうに言うお智に、弥栄は笑った。
「武家屋敷での生活っていったって、別に私はお女中としてご奉公に上がるんだもの。そりゃあ、私たち庶民の生活とは全然違うんでしょうけど、あくまでもお殿さまにお仕えする立場にすぎないのよ」
「それもそうね。でも、お弥栄ちゃん、絶対に時々は手紙をちょうだいね」
切り替えが早いのも、お智の長所というか特長である。美人というタイプではないが、ふっくらとした丸顔には愛敬があり、瞳はいつも好奇心に生き生きと輝いていた。弥栄と異なり、朗らかな性格で、誰とでもすぐに親密になれるのだ。恐らく、お智にひとめで惚れたという若旦那も、そんなのびやかさに惹かれたのだろう。
お智なら、嫁いでも良い女房、蝋燭問屋の若内儀になれるはずだ。正反対の気性ゆえに余計に仲良くなれたのかもしれないが、弥栄は、お智には幸せになって貰いたかった。
そのときのことだった。
弥栄はふと脚許に光るものを見たような気がして、しゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
お智が愕いて声を上げる。
弥栄は拾い上げたものを手のひらに載せた。