天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第1章 第一話〝招き猫〟―旅立ち―
「根付けみたいね」
猫を象った根付けだった。小さな招き猫がおどけたような表情で澄ましている。その猫の首輪にはめ込まれた小さな石が陽の光を弾いていたのだ。
掌に乗せて陽光にかざすと、キラキラと光を反射して輝く。
「まぁ、きれいね」
お智が感嘆の声を上げた。
「何の石かしら」
興味津々といった様子で手許を覗き込んでくる。
「判らないわ。でも、確かにきれいな石ねえ」
弥栄も素直に頷く。よくよく見ると、その石は深い紅色で、石榴のような艶やかな色合いをしていた。
「落とし物でしょうね。持ち主が探してるかもしれないから、番屋に届けなくちゃ」
弥栄はお智と別れた後、近くの番所にその根付けを届けた。招き猫本体は陶器か何かでできているもので、さして値の張るものではない。だが、首輪の部分の石が妙に気になった。もしかしたら、高価なものではないかと思ったのである。
しかし、結局、その持ち主は現れないまま日は過ぎ、岡っ引きが伊予屋にその根付けを持ってきた。
その岡っ引きは與五(よご)六(ろく)といい、抜け目がないといわれる岡っ引き稼業を長年務めてきた割には、穏やかな風貌で物腰もやわらかかった。ただ、何事も見逃さぬといった眼光の鋭さだけは、流石に岡っ引き特有のものに相違なかった。
―持ち主は現れねえし、眼ん玉が飛び出るほど高そうなものでもなさそうだから、拾ったお前さんが持ってるのが一番良いんじゃねえのかい。
所々、鬢に白いものの混じる岡っ引きにそう言われ、弥栄は、招き猫の根付けの新たな持ち主となった。
猫を象った根付けだった。小さな招き猫がおどけたような表情で澄ましている。その猫の首輪にはめ込まれた小さな石が陽の光を弾いていたのだ。
掌に乗せて陽光にかざすと、キラキラと光を反射して輝く。
「まぁ、きれいね」
お智が感嘆の声を上げた。
「何の石かしら」
興味津々といった様子で手許を覗き込んでくる。
「判らないわ。でも、確かにきれいな石ねえ」
弥栄も素直に頷く。よくよく見ると、その石は深い紅色で、石榴のような艶やかな色合いをしていた。
「落とし物でしょうね。持ち主が探してるかもしれないから、番屋に届けなくちゃ」
弥栄はお智と別れた後、近くの番所にその根付けを届けた。招き猫本体は陶器か何かでできているもので、さして値の張るものではない。だが、首輪の部分の石が妙に気になった。もしかしたら、高価なものではないかと思ったのである。
しかし、結局、その持ち主は現れないまま日は過ぎ、岡っ引きが伊予屋にその根付けを持ってきた。
その岡っ引きは與五(よご)六(ろく)といい、抜け目がないといわれる岡っ引き稼業を長年務めてきた割には、穏やかな風貌で物腰もやわらかかった。ただ、何事も見逃さぬといった眼光の鋭さだけは、流石に岡っ引き特有のものに相違なかった。
―持ち主は現れねえし、眼ん玉が飛び出るほど高そうなものでもなさそうだから、拾ったお前さんが持ってるのが一番良いんじゃねえのかい。
所々、鬢に白いものの混じる岡っ引きにそう言われ、弥栄は、招き猫の根付けの新たな持ち主となった。