天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第8章 哀しい別離
「本当のことを言うと、お弥栄ちゃんが別れたがってる男の持ってきたものを渡して良いものかどうか、あたしにも思案がつかなくてさ」
おさんは、言い訳のように付け足した。
八重は、その言葉に一瞬、胸が熱くなる。おさんは、そこまで自分のことを思いやってくれているのだ。
「この毬は、若君さまがよく遊ばれていたものなんです。こっちの根付けも最後まで大切にお持ちあそばされて」
皆まで言えなかった。八重は招き猫の根付けを握りしめると、しゃくり上げた。
漸く見つかった清冶郞は全身、雨に濡れていた。着替えさせるために着物を脱がせた時、懐からあの根付けが出てきた。いつも清冶郞が肌身離さず身に付けていたのだ、あの時、八重は改めて知った。
「あのお武家さまが昨日の帰り際、こんなことを言ってたよ。本当は金魚も形見としてお弥栄ちゃんに渡そうと思っていたんだけど、そうなると、自分に何も残らなくなって、それはあまりに淋しいから、金魚だけは息子の想い出として大切に飼うって」
八重は無言で、招き猫を見つめている。
そんな八重をおさんは痛ましげに見た。
「ねえ、お弥栄ちゃん、余計なお節介かもしれないけど、もう一度、逢った方が良いんじゃないかえ。昨日、お武家さまがまた一人でこんなところまで来たのも、もしかしたら、お弥栄ちゃんに逢いたかったからじゃないのかねえ」
ややあって、おさんが訊ねた。
「お弥栄ちゃん、あのお殿さまのこと、嫌いなの?」
「―」
八重はかすかにかぶりを振る。
おさんは、言い訳のように付け足した。
八重は、その言葉に一瞬、胸が熱くなる。おさんは、そこまで自分のことを思いやってくれているのだ。
「この毬は、若君さまがよく遊ばれていたものなんです。こっちの根付けも最後まで大切にお持ちあそばされて」
皆まで言えなかった。八重は招き猫の根付けを握りしめると、しゃくり上げた。
漸く見つかった清冶郞は全身、雨に濡れていた。着替えさせるために着物を脱がせた時、懐からあの根付けが出てきた。いつも清冶郞が肌身離さず身に付けていたのだ、あの時、八重は改めて知った。
「あのお武家さまが昨日の帰り際、こんなことを言ってたよ。本当は金魚も形見としてお弥栄ちゃんに渡そうと思っていたんだけど、そうなると、自分に何も残らなくなって、それはあまりに淋しいから、金魚だけは息子の想い出として大切に飼うって」
八重は無言で、招き猫を見つめている。
そんな八重をおさんは痛ましげに見た。
「ねえ、お弥栄ちゃん、余計なお節介かもしれないけど、もう一度、逢った方が良いんじゃないかえ。昨日、お武家さまがまた一人でこんなところまで来たのも、もしかしたら、お弥栄ちゃんに逢いたかったからじゃないのかねえ」
ややあって、おさんが訊ねた。
「お弥栄ちゃん、あのお殿さまのこと、嫌いなの?」
「―」
八重はかすかにかぶりを振る。