
天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第9章 祝言
折角だからと御堂の前までゆき手を合わせたものの、途方に暮れた。
恋愛に効験あらたかな神さまだと聞いているが、果たして、何を祈るべきか皆目判らない。終わった恋にいつまでも未練たらしくしがみついていないで、新しい恋のことを祈るべきだろうか。
どうしたら良いか判らなくて、八重は溜息をつき、その場を離れた。踵を返そうとしたまさにその時。
背後から、深い声が降ってきた。
「何を祈っておるのだ」
八重の背中が強ばる。
逢いたいけれど、逢いたくないひと。
振り向こうとしても、八重はどうしても嘉亨の顔を見られない。あんな別れ方をして、酷いことを言って、どんな顔をして逢えば良いというのだろうか。
―あぁ、素直じゃないね。
どこからか、おさんの声が聞こえてくるような気がした。
「お師匠に訊ねたら、多分ここだろうと教えて下された」
嘉亨の声が続く。
ああ、何でここが判ったんだろうと思っていたら、やっぱり、おさんが喋ったのだ。
もう、お師匠さんのお喋り。
八重は心でおさんに文句を言ってやった。
「ここは町民たちの間では、恋愛成就に効くと評判だそうな。以前、私付きの腰元が何やらそのようなことを申しておった」
その何げないひと言を聞いて、ふいに心がさざ波立つ。
嘉亨付きの腰元―、そのような他愛ない話題をするほど親しく、踏み込んだ間柄であったのだろうか。普通、幾ら藩主専属の腰元ではあっても、そのような世俗の話は藩主と腰元との間で交わすものではないだろう。
しかも、恋愛の話だ。
恋愛に効験あらたかな神さまだと聞いているが、果たして、何を祈るべきか皆目判らない。終わった恋にいつまでも未練たらしくしがみついていないで、新しい恋のことを祈るべきだろうか。
どうしたら良いか判らなくて、八重は溜息をつき、その場を離れた。踵を返そうとしたまさにその時。
背後から、深い声が降ってきた。
「何を祈っておるのだ」
八重の背中が強ばる。
逢いたいけれど、逢いたくないひと。
振り向こうとしても、八重はどうしても嘉亨の顔を見られない。あんな別れ方をして、酷いことを言って、どんな顔をして逢えば良いというのだろうか。
―あぁ、素直じゃないね。
どこからか、おさんの声が聞こえてくるような気がした。
「お師匠に訊ねたら、多分ここだろうと教えて下された」
嘉亨の声が続く。
ああ、何でここが判ったんだろうと思っていたら、やっぱり、おさんが喋ったのだ。
もう、お師匠さんのお喋り。
八重は心でおさんに文句を言ってやった。
「ここは町民たちの間では、恋愛成就に効くと評判だそうな。以前、私付きの腰元が何やらそのようなことを申しておった」
その何げないひと言を聞いて、ふいに心がさざ波立つ。
嘉亨付きの腰元―、そのような他愛ない話題をするほど親しく、踏み込んだ間柄であったのだろうか。普通、幾ら藩主専属の腰元ではあっても、そのような世俗の話は藩主と腰元との間で交わすものではないだろう。
しかも、恋愛の話だ。
