
天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第9章 祝言
「その恋愛に効験のあるという神に一体、そなたが何を熱心に祈っておったのか、私としては非常に気になるところだが」
「私は何も―」
八重は依然として嘉亨に背を向けたまま、言い訳がましく応えた。
それよりも、嘉亨の方こそ、そんな話を仕入れた腰元とは、どのような拘わりがあったのか。その腰元は今でも嘉亨の傍にいるのだろうか。
ひと口に腰元とはいっても、それぞれに役割というか職務も違う。仕事内容が違えば、当然ながら、仕えるべき主人も別で、例えば八重が若君付きであったように、藩主嘉亨付きの者もいれば、正室付きの者もいるといった案配だ。
ついに我慢しきれず、八重はくるりと嘉亨に向き直った。人並み外れて上背のある嘉亨と向かい合うと、小柄な八重はどうしても見上げるか、背伸びするような恰好になる。
唖然としている嘉亨を見上げ、ひと息に言う。
「私の方こそ、迂闊にございました。殿がそのように恋愛話をなさるほど、親しくなさっておいでのお方がいらっしゃるとは露ほども存じませず」
本音をいえば、嘉亨とそのような話をしたのが誰なのか、今でも奥向きにいるのか知りたい。だが、そんなことを口に出せるものではない。
―全っく。お弥栄ちゃんは、どこまでいっても素直じゃないねぇ。
また、どこからか、おさんの明るい声が聞こえてきた。
―お生憎さま、どうせ私は素直じゃありませんよ。
八重もまた、おさんに言い返す。
「何だ、八重。もしかして、そちは妬いておるのか?」
「私は何も―」
八重は依然として嘉亨に背を向けたまま、言い訳がましく応えた。
それよりも、嘉亨の方こそ、そんな話を仕入れた腰元とは、どのような拘わりがあったのか。その腰元は今でも嘉亨の傍にいるのだろうか。
ひと口に腰元とはいっても、それぞれに役割というか職務も違う。仕事内容が違えば、当然ながら、仕えるべき主人も別で、例えば八重が若君付きであったように、藩主嘉亨付きの者もいれば、正室付きの者もいるといった案配だ。
ついに我慢しきれず、八重はくるりと嘉亨に向き直った。人並み外れて上背のある嘉亨と向かい合うと、小柄な八重はどうしても見上げるか、背伸びするような恰好になる。
唖然としている嘉亨を見上げ、ひと息に言う。
「私の方こそ、迂闊にございました。殿がそのように恋愛話をなさるほど、親しくなさっておいでのお方がいらっしゃるとは露ほども存じませず」
本音をいえば、嘉亨とそのような話をしたのが誰なのか、今でも奥向きにいるのか知りたい。だが、そんなことを口に出せるものではない。
―全っく。お弥栄ちゃんは、どこまでいっても素直じゃないねぇ。
また、どこからか、おさんの明るい声が聞こえてきた。
―お生憎さま、どうせ私は素直じゃありませんよ。
八重もまた、おさんに言い返す。
「何だ、八重。もしかして、そちは妬いておるのか?」
