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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第9章 祝言

 嘉亨が表情を緩め、眩しそうに八重を見つめる。
 萌黄の地色に麻の葉模様の着物が涼しげで、肌理細やかな白い膚を引き立てている。同系色の少し濃いめの帯には正面に金魚が大胆に手書きで描かれ、その帯飾りは清冶郞ゆかりの招き猫であった。
 そういえば、と、八重は思った。
 殿は何故、私を見る時、こんな風に眩しいものでも見るかのように眼を細めておしまいになるのだろうか。
 一度、その理由を訊ねてみても良いかしらと思っている中に、強い力で引き寄せられた。
 嘉亨の広い胸に頬を押し当てる寸前、愛しい男の背後で咲く朱色の花が眼に入った。
 自分もこの花のように、嘉亨に寄り添って生きてゆけるだろうか。何があっても、嘉亨の妻としてこの男に付いてゆけるだろうか。
―本当、お師匠さん、凌霄花がこんなに可愛らしい花だなんて、私は思いもしませんでした。
 八重は、心の中でそっとおさんに呼びかけた。

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