
天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第9章 祝言
木檜藩には長らく正室不在の状態が続いていた。嘉亨が最初の正室尚姫を水野家から迎えたのは、もう十年前のことになる。その間、尚姫は結婚わずか三年で離縁、たった一人の世継清冶郞は重い病に冒され、余命幾ばくもないと告げられた身であった。
その清冶郞が八歳で逝去したのは、まだ記憶に新しい。家臣の中には、清冶郞の一周忌が済むまで祝言を控えてはと言う者もいたのだが、普段は常識人の嘉亨がこれには最後まで強硬に反対し、今日の婚儀が実現した。
もっとも、老女春日井にせよ家老坂崎主膳にせよ、嫡男のおらぬ現在の状態には深い危機感を憶えていたため、藩主の一日も早い結婚にはむしろ賛成派であった。
―殿には、最早、一日もお待ちになれぬのであろうよ。
というのが、大方の者たちの意見であった。
とにもかくにも、嘉亨の二度めの晴れ姿を眼にした坂崎主膳初め、老臣たちは皆、感涙にむせんでいた。主膳の傍らの春日井もまた泣きこそしなかったが、感無量の面持ちで若き二人の門出を見守っていた。
生母を喪った嘉亨を引き取り、八歳から育てた敬行院は紫の被布を纏い、頭は切り下げ髪のご後室姿である。この女人もまたしきりに袂で眼頭を押さえていた。
今回のなりゆきを八重は伯父弐兵衛には知らせなかった。が、町人の出でありながら、一躍大名夫人となった八重の噂をどこで聞きつけてきたものか、弐兵衛の方から、あれこれと言ってくるようになり、あまつさえ文で祝言に出席したいとまで申し出てきたのである。
その清冶郞が八歳で逝去したのは、まだ記憶に新しい。家臣の中には、清冶郞の一周忌が済むまで祝言を控えてはと言う者もいたのだが、普段は常識人の嘉亨がこれには最後まで強硬に反対し、今日の婚儀が実現した。
もっとも、老女春日井にせよ家老坂崎主膳にせよ、嫡男のおらぬ現在の状態には深い危機感を憶えていたため、藩主の一日も早い結婚にはむしろ賛成派であった。
―殿には、最早、一日もお待ちになれぬのであろうよ。
というのが、大方の者たちの意見であった。
とにもかくにも、嘉亨の二度めの晴れ姿を眼にした坂崎主膳初め、老臣たちは皆、感涙にむせんでいた。主膳の傍らの春日井もまた泣きこそしなかったが、感無量の面持ちで若き二人の門出を見守っていた。
生母を喪った嘉亨を引き取り、八歳から育てた敬行院は紫の被布を纏い、頭は切り下げ髪のご後室姿である。この女人もまたしきりに袂で眼頭を押さえていた。
今回のなりゆきを八重は伯父弐兵衛には知らせなかった。が、町人の出でありながら、一躍大名夫人となった八重の噂をどこで聞きつけてきたものか、弐兵衛の方から、あれこれと言ってくるようになり、あまつさえ文で祝言に出席したいとまで申し出てきたのである。
