天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第9章 祝言
この頃には、嘉亨も弐兵衛の八重に対する仕打ちを色々と聞いていたから、あまり良い顔はしなかった。それでも、仮にも血の繋がった伯父であり、理由はどうあれ、父絃七の残した借金を肩代わりしてくれた恩義もある。
八重が嘉亨に伯父夫婦を婚儀に招いても良いかと相談したところ、嘉亨は憮然として〝捨て置け〟と言ったきりであった。むろん、八重からの祝言には遠慮して欲しいという返事を受け取った弐兵衛・おすみ夫婦が〝あの恩知らずの小娘め〟と口汚く罵ったことは言うまでもない。
たとえ身内といえども、大名と町方では格式が違いすぎる。もし弐兵衛が心底から可愛い姪のためを思うのであれば、立場を考えて晴れがましい場には遠慮して、陰ながら幸せを祈るのが筋というものであったろう。ひとたびは追い出しておきながら、八重が木檜藩主の正室となるに及んで、のこのこと親面をしてしゃしゃり出てくるとは、全く計算高い現金な夫婦であった。これには、流石の嘉亨も呆れ果てた様子を隠せないようであった。
目深に被った綿帽子のせいで、可憐な花嫁の瞼が濡れているのに気付いた者は殆どいなかった。
やがて、華燭の典が滞りなく終わり、花嫁花婿は早々と退席する。
主役がいなくなった大広間では、酒肴が配られ、これから夜を徹しての祝宴が続くのであった。
八重が嘉亨に伯父夫婦を婚儀に招いても良いかと相談したところ、嘉亨は憮然として〝捨て置け〟と言ったきりであった。むろん、八重からの祝言には遠慮して欲しいという返事を受け取った弐兵衛・おすみ夫婦が〝あの恩知らずの小娘め〟と口汚く罵ったことは言うまでもない。
たとえ身内といえども、大名と町方では格式が違いすぎる。もし弐兵衛が心底から可愛い姪のためを思うのであれば、立場を考えて晴れがましい場には遠慮して、陰ながら幸せを祈るのが筋というものであったろう。ひとたびは追い出しておきながら、八重が木檜藩主の正室となるに及んで、のこのこと親面をしてしゃしゃり出てくるとは、全く計算高い現金な夫婦であった。これには、流石の嘉亨も呆れ果てた様子を隠せないようであった。
目深に被った綿帽子のせいで、可憐な花嫁の瞼が濡れているのに気付いた者は殆どいなかった。
やがて、華燭の典が滞りなく終わり、花嫁花婿は早々と退席する。
主役がいなくなった大広間では、酒肴が配られ、これから夜を徹しての祝宴が続くのであった。