天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第9章 祝言
嘉亨の逞しい身体からは、樹木の香りにも似た香の爽やかな香りが漂ってくる。香でも消し切れない、男らしい匂いがそれにほのかに混じる。
その匂いに気付いたことで、ますます嘉亨を身近に感じられて、八重はうっとりと眼を閉じた。いつしか、恥ずかしさは消えている。
この無口で判り辛いところもあるけれど、強くて、優しくて、自分を大切にしてくれる人と一緒ならば、この先、何があろうと乗り越えてゆける。そんな気がした。
「八重、これからはもう離さない。いつも一緒だ」
「たとえ離れろとおっしゃっても、八重は殿のお側を離れませぬ」
八重が頬を染めながら言うと、嘉亨がまた眼を細めた。
「可愛いことを申す」
嘉亨が待ちかねたように八重の唇を塞いだ。最初は羽毛が掠めるような口づけが直に深くなる。唇を合わせたまま、嘉亨が八重をそっと褥に押し倒し、覆い被さってきた。
嘉亨の唇が束の間離れ、八重が息をついていると、今度は降るような口づけが首筋に落ちてくる。熱い唇が首筋から鎖骨へとゆっくりと降りてきて、大きな手のひらが八重の夜着の合わせ目にかかった。
「良いな?」
念を押すように訊ねる嘉亨に、八重はわずかな逡巡を見せた。
「嘉亨さま、私、どうしたら良いのでしょう」
早くに母親を失った八重は、実はこういった知識が殆どない。恥ずかしさを我慢して春日井に訊ねても、ただ〝何事も殿の思し召しに従われますように〟と言うばかりで、結局何も教えてはくれなかった。
「八重は何もしなくて良い。私に任せておけば良いから」
その匂いに気付いたことで、ますます嘉亨を身近に感じられて、八重はうっとりと眼を閉じた。いつしか、恥ずかしさは消えている。
この無口で判り辛いところもあるけれど、強くて、優しくて、自分を大切にしてくれる人と一緒ならば、この先、何があろうと乗り越えてゆける。そんな気がした。
「八重、これからはもう離さない。いつも一緒だ」
「たとえ離れろとおっしゃっても、八重は殿のお側を離れませぬ」
八重が頬を染めながら言うと、嘉亨がまた眼を細めた。
「可愛いことを申す」
嘉亨が待ちかねたように八重の唇を塞いだ。最初は羽毛が掠めるような口づけが直に深くなる。唇を合わせたまま、嘉亨が八重をそっと褥に押し倒し、覆い被さってきた。
嘉亨の唇が束の間離れ、八重が息をついていると、今度は降るような口づけが首筋に落ちてくる。熱い唇が首筋から鎖骨へとゆっくりと降りてきて、大きな手のひらが八重の夜着の合わせ目にかかった。
「良いな?」
念を押すように訊ねる嘉亨に、八重はわずかな逡巡を見せた。
「嘉亨さま、私、どうしたら良いのでしょう」
早くに母親を失った八重は、実はこういった知識が殆どない。恥ずかしさを我慢して春日井に訊ねても、ただ〝何事も殿の思し召しに従われますように〟と言うばかりで、結局何も教えてはくれなかった。
「八重は何もしなくて良い。私に任せておけば良いから」