天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第10章 第四話〝空華(くうげ)〟・すれ違い
しかし、良人自身がまだ十代の若さの妻であれば、これから子は幾人でも孕めようと姑の意見を突っぱねたのだ。
―女子は子を生む道具ではない。
その時、飛鳥井は姑の意をはね返してくれた良人に感謝すると共に、情のなつ姑の仕打ちを恨めしく思ったものだった。
孕め身ごもれと煩く催促されても、思い通りにゆかぬのが子宝というものだろう。その後、飛鳥井は十七で待望の初子を授かり、更に二年後には第二子をあげた。その半年後、幸運にもご世嗣(嘉亨)の乳人としてご奉公に上がることが決まったのである。
頑是なき二人の子らを婚家に残してのご奉公であった。以来、我が子よりは若君さまの御事を第一と心に定めて心よりお仕えしてきた。良人は連れ添って十年めの春に三十に満たない若さで亡くなった。妻であった月日は十年数えたが、実際に夫婦として共に暮らしたのは、わずか五年―その半分でしかなかった。
それでも、飛鳥井がご奉公に上がってからも、側女を置くようにとの姑の勧めも一切受けつけず、最後まで飛鳥井一人を妻として守った誠実な男であった。
肝心なのは夫婦仲であって、それさえ問題なければ、飛鳥井としては何の愁いもない。だが、奥方が殿のお召しを拒むとなれば、それは大いに問題がある。
―殿はあのとおり、女を歓ばせるようなお気の聞いた科白一つ、お口にはなされぬ方ゆえ。
飛鳥井は、そこで溜息をそっと吐く。
あまりに好色で、女とみれば手を付けるようなご乱行も困るが、女に淡泊すぎるのも弱る。いや、奥方にあれほどご執心、ご耽溺の様子を見れば、淡泊というわけではないのだろう。これまで殿のお気に入った女子が現れなかっただけのことなのだ―。
折角、出現したその得難い奥方が殿をお厭いあそばすようなことになれば、一大事。
―女子は子を生む道具ではない。
その時、飛鳥井は姑の意をはね返してくれた良人に感謝すると共に、情のなつ姑の仕打ちを恨めしく思ったものだった。
孕め身ごもれと煩く催促されても、思い通りにゆかぬのが子宝というものだろう。その後、飛鳥井は十七で待望の初子を授かり、更に二年後には第二子をあげた。その半年後、幸運にもご世嗣(嘉亨)の乳人としてご奉公に上がることが決まったのである。
頑是なき二人の子らを婚家に残してのご奉公であった。以来、我が子よりは若君さまの御事を第一と心に定めて心よりお仕えしてきた。良人は連れ添って十年めの春に三十に満たない若さで亡くなった。妻であった月日は十年数えたが、実際に夫婦として共に暮らしたのは、わずか五年―その半分でしかなかった。
それでも、飛鳥井がご奉公に上がってからも、側女を置くようにとの姑の勧めも一切受けつけず、最後まで飛鳥井一人を妻として守った誠実な男であった。
肝心なのは夫婦仲であって、それさえ問題なければ、飛鳥井としては何の愁いもない。だが、奥方が殿のお召しを拒むとなれば、それは大いに問題がある。
―殿はあのとおり、女を歓ばせるようなお気の聞いた科白一つ、お口にはなされぬ方ゆえ。
飛鳥井は、そこで溜息をそっと吐く。
あまりに好色で、女とみれば手を付けるようなご乱行も困るが、女に淡泊すぎるのも弱る。いや、奥方にあれほどご執心、ご耽溺の様子を見れば、淡泊というわけではないのだろう。これまで殿のお気に入った女子が現れなかっただけのことなのだ―。
折角、出現したその得難い奥方が殿をお厭いあそばすようなことになれば、一大事。