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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第10章 第四話〝空華(くうげ)〟・すれ違い

 初めて八重を見た時、飛鳥井は垢抜けない十六の小娘の内に磨けば光る光輝を見出した。不器用で思ったことの一つも満足に口にできぬが、その分、実直で言いつけられた仕事は丁寧に最後までやり通す。失敗しても、けして他人のせいにはせず、むしろ他人の粗相まで我が身が責めを負おうと引き受ける。
 何より、あの乳母にでさえ懐こうとしなかった気難しい清冶郞君をわずかの間に手なずけてしまったときには物に動じぬ飛鳥井でさえ流石に仰天した。八重が現れるまで、一体、何人の腰元が清冶郞に泣かされ、逃げ帰ったことか。この娘は並の娘ではないと思ったけれど、果たして、どんな女に見向きもしなかった嘉亨が八重に興味を示し、妻にと熱望した。八重ほどの娘を木檜藩の正室として戴けるならば、この際、身分の低いことなど、たいした問題ではないと思いさえしたのだ。
 嘉亨と八重の結婚を反対する者の多い逆風の中、意外にすんなりと事が運んだのは、実は、この飛鳥井の後押しかがあったからでもある。嘉亨の乳人にして奥向きの総取締である老女の飛鳥井の威光は江戸家老の酒井主膳ですら逆らいがたいものがある。
 子を生め、子を生めと急かされれば、余計に厭になるのが人―ならぬ女の心。
 本来なら、妻のその想いを真っ先に汲み取さてやるのが良人たる嘉亨の務めなのだが、あの朴念仁の嘉亨には至難の業であろう。
―我が殿は名君・賢君との誉れも高きお方におわすが、いかにせん、女人を口説くすべはお持ちにはならぬ。
 その点は、やはり自分のお育ての仕方が今一つ足りなかったのか。

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