天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第11章 秘密
秘密
飛鳥井が一人で難しい顔をしているその同じ頃、八重もまた居間で物想いに沈んでいた。
今夜も殿のお渡りがあると知らされたものの、結局、八重はお召しを辞退してしまった。
昨年の霜月半ばに晴れて夫婦となってからというもの、嘉亨のお渡りはほぼ毎夜である。たまには顔を見せない日もあるけれど、それは滅多とない稀有なことだ。そして、八重がお褥を辞退するのもこれが初めてのことになる。
元々、八重は愛し合う(と、世の人はそう呼ぶが)男女の行為というものがあまり好きではない。好きという言い方は語弊があるかもしれないが、嘉亨のことは今も変わらずどころか、自分でも持て余すほどにどんどん好きになってゆくのに、いざ彼に抱かれるという段になると、気が引けてしまうのだ。
八重は、幾ら嘉亨と膚を合わせても初というか、どこか生娘の名残を残していた。その奥手さを可愛いものと見る嘉亨が逆に向くな八重にも屈辱的ともいえる淫らな行為を味わわせ、教え込むことに最近は悦びを感じているようでもある。八重にしてみれば、良人が物足りない、褥を共にしても面白くもないと思ってくれれば、その方がむしろ良い―と、最近では思うようにさえなってきた。
八重がそんな風に思うようになってしまったのは、ここのところの自分の変化にも原因がある。嘉亨の愛撫によって、どんどん淫らになってゆく自分が怖くもある。男の腕の中で蕾を思う存分に開花させ、幾度も花びらを散らしながら、自分でさえ知らぬ全く別の女に変化(へんげ゛)してゆく自分が怖ろしい。
飛鳥井が一人で難しい顔をしているその同じ頃、八重もまた居間で物想いに沈んでいた。
今夜も殿のお渡りがあると知らされたものの、結局、八重はお召しを辞退してしまった。
昨年の霜月半ばに晴れて夫婦となってからというもの、嘉亨のお渡りはほぼ毎夜である。たまには顔を見せない日もあるけれど、それは滅多とない稀有なことだ。そして、八重がお褥を辞退するのもこれが初めてのことになる。
元々、八重は愛し合う(と、世の人はそう呼ぶが)男女の行為というものがあまり好きではない。好きという言い方は語弊があるかもしれないが、嘉亨のことは今も変わらずどころか、自分でも持て余すほどにどんどん好きになってゆくのに、いざ彼に抱かれるという段になると、気が引けてしまうのだ。
八重は、幾ら嘉亨と膚を合わせても初というか、どこか生娘の名残を残していた。その奥手さを可愛いものと見る嘉亨が逆に向くな八重にも屈辱的ともいえる淫らな行為を味わわせ、教え込むことに最近は悦びを感じているようでもある。八重にしてみれば、良人が物足りない、褥を共にしても面白くもないと思ってくれれば、その方がむしろ良い―と、最近では思うようにさえなってきた。
八重がそんな風に思うようになってしまったのは、ここのところの自分の変化にも原因がある。嘉亨の愛撫によって、どんどん淫らになってゆく自分が怖くもある。男の腕の中で蕾を思う存分に開花させ、幾度も花びらを散らしながら、自分でさえ知らぬ全く別の女に変化(へんげ゛)してゆく自分が怖ろしい。