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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第11章 秘密

 男と膚を重ね、求め合うことに次第に貪欲になってゆく自分を厭わしいものだと、八重は思い込んでいる。その裏返しが嘉亨と褥を共にすることを心の負担にさせているのだ。だが、八重自身はそのことに気付いてはいない。
 嘉亨はいつだって優しく、妻への労りを忘れない。閨の中ではいささか強引になり、刻に暴君にもなるが、それでも八重を大切に扱ってくれていることは判る。八重がどうしても厭だということは、絶対に求めようとはしない。むしろ、いささか大胆すぎる―と思うほどの嘉亨の求めに応じてしまう自分の方が怖ろしい。そして、その求めに応じることが、いつも八重の知らぬ未知の世界の扉を開くのだということも。
 いまだ知らぬ男女の拘わりの深淵を覗くことは、八重にとっては空恐ろしくもあり、反面、かすかな期待で胸が高鳴るようでもある。要するに、幼子が怖いもの見たさで顔を隠しているようなものだ。嘉亨が八重を連れてゆこうとしている場所は、行ってみたいくもあり、また行きたくないとも思う。底知れず淫らになってゆく自分の心も、身体もすべてが八重は厭わしいものに思えてならなかった。
―身体を大切に致すように。
 案の定、嘉亨からは、そのような労りの言葉が届けられた。八重がお褥を辞退したその理由は、頭痛だったからだ。嘉亨からは温かな見舞いの言葉と共に、早咲きの水仙まで届けられた。玉砂利を埋め尽くした青磁の鉢に、温室で育てられたという水仙がひっそりと咲いている。鮮やかな黄色の花は鶴がほっそりとした首をもたげるように優美な姿を見せている。
 そっと顔を近付けると、ほのかにかぐわしい香りが漂い、鼻腔をくすぐった。青磁の鉢に刻まれた細かな文様を意味もなくじっと眺め入っていると、傍らで琴路の声が耳を打った。

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