天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第11章 秘密
「まあ、これはほんにお見事なお花でございまする」
琴路は飛鳥井の腹心ともいえるべき侍女である。この上屋敷の奥向きでは、筆頭者の飛鳥井に準ずる立場にあるといって良い。確か三十七になると聞いているが、飛鳥井とは先反対のタイプで、ふっくらとした面立ちと多福のような福相が見る者に親近感を抱かせる。
もっとも、飛鳥井と異なり、琴路は内面は見かけほど甘くはない。飛鳥井が厳しい人だと見られがちなのに、実は意外にざっくばらんで結構話の判る女だというのは対照的である。飛鳥井を見ていると、八重は色々と学ぶべきところが多かった。上に立つ者、大勢の者たちを束ねる立場の人間は、あのようでなくてはいけないとつくづく思う。
誰にでも甘い顔をしては大勢の奥女中たちを統率はできないし、かといって、厳しいばかりでは、人はついてこないし、人の心は掴めない。ほどほどに厳しく、ほどほどに優しく。それが、人の心を掴むコツだ。八重は、そのことを飛鳥井から身をもって教わった。
その点、琴路は参謀役としては打ってつけだろう。何より、飛鳥井を崇拝し、飛鳥井のためならば我が生命も惜しまじと決死の覚悟で働くだけの気概がある。琴路が普段、声を荒げて若い腰元を叱ることはないが、その実、自分が見た逐一を飛鳥井に寸分洩らさず報告していることを、八重は知っている。人は飛鳥井よりも琴路の方が心優しいと思うだろうが、本当の意味では、飛鳥井よりは琴路の方が人には厳しいのだ。誰もが、外見だけで飛鳥井の方が冷厳な人だと思い込んでしまう。
だが、飛鳥井のような人物でなければ、真の統率者にはなれない。
琴路は飛鳥井の腹心ともいえるべき侍女である。この上屋敷の奥向きでは、筆頭者の飛鳥井に準ずる立場にあるといって良い。確か三十七になると聞いているが、飛鳥井とは先反対のタイプで、ふっくらとした面立ちと多福のような福相が見る者に親近感を抱かせる。
もっとも、飛鳥井と異なり、琴路は内面は見かけほど甘くはない。飛鳥井が厳しい人だと見られがちなのに、実は意外にざっくばらんで結構話の判る女だというのは対照的である。飛鳥井を見ていると、八重は色々と学ぶべきところが多かった。上に立つ者、大勢の者たちを束ねる立場の人間は、あのようでなくてはいけないとつくづく思う。
誰にでも甘い顔をしては大勢の奥女中たちを統率はできないし、かといって、厳しいばかりでは、人はついてこないし、人の心は掴めない。ほどほどに厳しく、ほどほどに優しく。それが、人の心を掴むコツだ。八重は、そのことを飛鳥井から身をもって教わった。
その点、琴路は参謀役としては打ってつけだろう。何より、飛鳥井を崇拝し、飛鳥井のためならば我が生命も惜しまじと決死の覚悟で働くだけの気概がある。琴路が普段、声を荒げて若い腰元を叱ることはないが、その実、自分が見た逐一を飛鳥井に寸分洩らさず報告していることを、八重は知っている。人は飛鳥井よりも琴路の方が心優しいと思うだろうが、本当の意味では、飛鳥井よりは琴路の方が人には厳しいのだ。誰もが、外見だけで飛鳥井の方が冷厳な人だと思い込んでしまう。
だが、飛鳥井のような人物でなければ、真の統率者にはなれない。