天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第11章 秘密
嘉亨が八重の手許をじいっと見ている。八重の手には小さな手毬が乗っていた。黒地に撫子柄の、色とりどりの糸でかがられた眼にも彩な愛らしい手毬である。それは、亡き清冶郞の形見の品でもあった。生前、清冶郞が気に入ってよく遊んでいたものだ。
嘉亨は八重の手から手毬を取り上げた。
〝あっ〟と八重は声を上げ、嘉亨を見上げる。
「一体、いつまで亡くなった者の想い出にばかり浸っておるつもりだ」
その声音はいつになく硬い。
「八重、そなたは自分の務めを忘れているのではなかろうな」
八重が弾かれたように嘉亨を見た。
「そなたの務めは一日も早う私の子を生むことだ。清冶郞は不憫とも哀れとも思うが、いかに嘆こうとも逝った者は帰らぬ。そなたも清冶郞のことは忘れ、己が子を生むことを考えよ」
「申し訳―ございませぬ」
八重はその場に手をついた。嘉亨から世継の話が出たのは初めてであった。
―そなたは自分の務めを忘れているのではなかろうな。
流石に嘉亨その人から言われると、こたえた。
「八重」
嘉亨が八重の細い手首を掴む。強い力で引き寄せられ、八重は呆気なく嘉亨の逞しい腕の中に倒れ込んだ。嘉亨の顔が近づいてくる。
唇が重なろうとするその瞬間、八重は顔を背けた。
刹那、嘉亨の端整な面がさっと蒼褪めるのが八重にも判った。嘉亨は両手で掬い上げるように八重を横に抱えあげた。そのまま隣室へゆこうとするのに、八重は狼狽える。
「殿、お止め下さいませ」
居間の隣は言わずと知れた寝所であった。
嘉亨は八重の手から手毬を取り上げた。
〝あっ〟と八重は声を上げ、嘉亨を見上げる。
「一体、いつまで亡くなった者の想い出にばかり浸っておるつもりだ」
その声音はいつになく硬い。
「八重、そなたは自分の務めを忘れているのではなかろうな」
八重が弾かれたように嘉亨を見た。
「そなたの務めは一日も早う私の子を生むことだ。清冶郞は不憫とも哀れとも思うが、いかに嘆こうとも逝った者は帰らぬ。そなたも清冶郞のことは忘れ、己が子を生むことを考えよ」
「申し訳―ございませぬ」
八重はその場に手をついた。嘉亨から世継の話が出たのは初めてであった。
―そなたは自分の務めを忘れているのではなかろうな。
流石に嘉亨その人から言われると、こたえた。
「八重」
嘉亨が八重の細い手首を掴む。強い力で引き寄せられ、八重は呆気なく嘉亨の逞しい腕の中に倒れ込んだ。嘉亨の顔が近づいてくる。
唇が重なろうとするその瞬間、八重は顔を背けた。
刹那、嘉亨の端整な面がさっと蒼褪めるのが八重にも判った。嘉亨は両手で掬い上げるように八重を横に抱えあげた。そのまま隣室へゆこうとするのに、八重は狼狽える。
「殿、お止め下さいませ」
居間の隣は言わずと知れた寝所であった。