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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第11章 秘密

 幾ら何でも陽の高い明るい朝間から、二人きりで籠もる場所ではない。
 嘉亨は抗う八重には頓着もせず、寝間へと続く襖を開いた。朝から八重が不調を訴えたため、寝室にはそのまま褥が敷かれている。
 嘉亨は、八重を褥の上にやや乱暴な仕種で下ろすと、すぐに上から覆い被さってくる。
「殿、どうかお許しを」
 八重は懸命に抗った。涙が零れそうだった。あの優しくて温厚な嘉亨がまるで別人のように荒々しく八重を組み敷こうとしている。その変貌ぶりが俄には信じられない。
 居間にいるときは、八重は打掛を着ずに、小袖姿でいることが多い。今日は八重の好きな撫子色の地に波千鳥が金糸、銀糸で縫い取られた小袖を纏っている。帯は落ち着いた紫に貝散らし、大小の様々な貝が描かれている。
 色の白い八重には、薄紅の小袖が映えて、眼も覚めるように匂いやかさであった。
 だが、今、嘉亨の手によって、貝散らしの帯がするすると解かれ、お気に入りの小袖もはぎ取られてゆく。
「誰―か」
 助けを求めて叫ぼうとすると、大きな手のひらで口許を塞がれた。呼吸が苦しい。八重は苦悶にもがき、暴れた。手のひらがやっと離れ、少しだけ楽になったかと思うと、すぐに今度は唇を重ねられる。熱い唇で抵抗を封じ込められ、また息ができなくなってしまった。
 信じられなかった。これがあの穏やかな良人と同じ男なのだろうか。八重が何か嘉亨の気を損じるようなことを言ってしまったようだけれど、だからと言って、これではまるで懲らしめのようではないか。
 八重は大粒の涙を零しながら、それでもなお助けを求めるように手を差しのべたが、その手もすぐに嘉亨に上から押さえつけれてしまった。

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