天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第11章 秘密
一刻後、嘉亨は八重の寝所から出て、表へと戻っていった。八重は緩慢な仕種で身を起こすと、ゆっくりと辺りを見回した。嘉亨に乱暴に解かれた帯や脱がされた小袖や肌襦袢、腰紐がその場に散乱している。まるで蛇のようにとぐろを巻いている帯を哀しい想いで見つめ、八重はそっと眼尻に溜まった涙を拭った。
まるで手籠めも同然に八重を乱暴に抱いた嘉亨の心が信じられなくなってくる。
「うっ、うっ」
八重は低い嗚咽を洩らした。泣くだけ泣いて、虚ろな眼で寝乱れた夜具を眺めていると、襖の向こう側から声がかけられる。
「奥方さま、お召し替えは、いかがなさいますか」
応える間もなく、襖が開いた。
八重は一糸纏わぬ姿であった。慌ててその場に落ちていた小袖を拾い上げ、身を隠したが、琴路はそこは流石に顔色一つ変えなかった。どころか、嬉しげな顔をしている。
「殿は、お方さまによほどご執心あそばれておいでにございますな」
「―」
八重は最早、返す言葉もなかった。八重の泣き声は外にまで聞こえていたはずだし、気配で何が行われていたかは控えの間にいれば、判るはずだ。八重が嘉亨に抗い、心ならずも身を委ねることになってしまったことも。
なのに、この女は何ゆえ平気な顔で―むしろ喜色満面といった表情で八重にそんなことを言うのだろう。と、八重は身体の奥からまたあの厭な吐き気がせり上がってくるのを憶えた。
口許を手で押さえ、その場に打ち伏した八重を、琴路が怪訝そうに見やる。
「お方さま、いかがなされましたか?」
まるで手籠めも同然に八重を乱暴に抱いた嘉亨の心が信じられなくなってくる。
「うっ、うっ」
八重は低い嗚咽を洩らした。泣くだけ泣いて、虚ろな眼で寝乱れた夜具を眺めていると、襖の向こう側から声がかけられる。
「奥方さま、お召し替えは、いかがなさいますか」
応える間もなく、襖が開いた。
八重は一糸纏わぬ姿であった。慌ててその場に落ちていた小袖を拾い上げ、身を隠したが、琴路はそこは流石に顔色一つ変えなかった。どころか、嬉しげな顔をしている。
「殿は、お方さまによほどご執心あそばれておいでにございますな」
「―」
八重は最早、返す言葉もなかった。八重の泣き声は外にまで聞こえていたはずだし、気配で何が行われていたかは控えの間にいれば、判るはずだ。八重が嘉亨に抗い、心ならずも身を委ねることになってしまったことも。
なのに、この女は何ゆえ平気な顔で―むしろ喜色満面といった表情で八重にそんなことを言うのだろう。と、八重は身体の奥からまたあの厭な吐き気がせり上がってくるのを憶えた。
口許を手で押さえ、その場に打ち伏した八重を、琴路が怪訝そうに見やる。
「お方さま、いかがなされましたか?」