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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第11章 秘密

 だが、八重は声を発することすらできない。ただ烈しい嘔吐感を堪(こら)えるのに精一杯だった。咳き込み続ける八重の背を琴路の手が撫でる。
「まあ、何と肌理細やかな、透き通るようなお膚。このように雪膚の美しい身体をしたおなごを私は見たことはございませぬ。これでは、殿がお方さまをかようにご寵愛なさるのも当然にございましょう」
―放っておいて、私に触らないで。
 八重は大声で叫び、琴路の手を振り払いたかった。今の八重には、琴路の言葉一つ一つが鋭い刃となって突き刺さる。
 琴路の言い様は、あたかも八重が嘉亨をその身体で、色香で陥落させたと言っているようなものだ。他の女たちの悪意ある陰口で結局は同じことではないか。
 自分は側妾でも慰みものでもない。嘉亨の、木檜嘉亨という男の妻なのだ。なのに、誰もが本当の自分を見てくれない。飛鳥井や酒井主膳にとっては世継の若君を生むための道具であり、嘉亨にとっては都合良く抱ける慰みもの。もしかしたら、嘉亨にとっても、八重が側女であろうと、正室であろうと、そんなことはどうでも良いのかもしれない。ただ、自分の好きなときに自由にできる玩具のような存在なのだろう。
「やはり、お匙をお呼び致しましょう」
 漸く吐き気が治まった時、琴路が浮き浮きとした様子で言った。あまりの苦しさに涙眼になっていた八重は、烈しく首を振る。
「要らぬ、そのような必要はない。少しじっとしておれば、治まったではないか」
 刹那、琴路の面からにこやかな笑みが消えた。きつい視線で八重を見据える。

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