天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第12章 真実
真実
それから十日ほどを経た、ある日のことである。暦は既に睦月から如月に変わっていた。
あれから嘉亨は今までどおりに夜になれば、奥向きにやってくる。八重の許を訪れ、これまでと変わらず褥を共にした。表面は何も変わらなかったけれど、互いに口にする言葉は意味のない、空疎なものばかりで、会話だけが上滑りしてゆくようだった。その中(うち)には、やがて、嘉亨も八重もそんな空しい会話に倦み、次第に話すこともなくなってゆく。
そんな中で、如月上旬、藩主の正室お八重の方のご懐妊が正式に発表された。侍医の診立てによれば、ご出産予定は今年の八月頃だという。木檜藩は上屋敷だけでなく、下屋敷でも大いにこの朗報に沸き立ち、国許では大がかりな祝祭さえ行われた。
八重の懐妊が判ってからというもの、嘉亨の態度が微妙に変化した。時折何か話したそうな様子を見せるのだが、八重は妊娠初期の悪阻が烈しくて、殆ど食べ物が喉を通らな状態になっていた。ひと回りも痩せ、しまいには身体が弱って一日の大半を床の中で過ごすようになってしまった。
嘉亨は毎日、八重の許を訪れ、床に伏す妻を見舞うことを忘れなかった。さりとて、枕許に座っても、何も言わず、痩せ細り、悪阻に苦しむ八重をやるせなさそうに見つめているだけだ。
その日、いつものように見舞いに訪れた嘉亨が表に戻った後、入れ替わるように飛鳥井が顔を見せた。
八重が身を起こそうとするのを、飛鳥井は慌てて制した。
それから十日ほどを経た、ある日のことである。暦は既に睦月から如月に変わっていた。
あれから嘉亨は今までどおりに夜になれば、奥向きにやってくる。八重の許を訪れ、これまでと変わらず褥を共にした。表面は何も変わらなかったけれど、互いに口にする言葉は意味のない、空疎なものばかりで、会話だけが上滑りしてゆくようだった。その中(うち)には、やがて、嘉亨も八重もそんな空しい会話に倦み、次第に話すこともなくなってゆく。
そんな中で、如月上旬、藩主の正室お八重の方のご懐妊が正式に発表された。侍医の診立てによれば、ご出産予定は今年の八月頃だという。木檜藩は上屋敷だけでなく、下屋敷でも大いにこの朗報に沸き立ち、国許では大がかりな祝祭さえ行われた。
八重の懐妊が判ってからというもの、嘉亨の態度が微妙に変化した。時折何か話したそうな様子を見せるのだが、八重は妊娠初期の悪阻が烈しくて、殆ど食べ物が喉を通らな状態になっていた。ひと回りも痩せ、しまいには身体が弱って一日の大半を床の中で過ごすようになってしまった。
嘉亨は毎日、八重の許を訪れ、床に伏す妻を見舞うことを忘れなかった。さりとて、枕許に座っても、何も言わず、痩せ細り、悪阻に苦しむ八重をやるせなさそうに見つめているだけだ。
その日、いつものように見舞いに訪れた嘉亨が表に戻った後、入れ替わるように飛鳥井が顔を見せた。
八重が身を起こそうとするのを、飛鳥井は慌てて制した。