テキストサイズ

天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第12章 真実

 その温かな陽溜まりの中に座し、八重は無心に針を動かしていた。ひと針、ひと針、心を、想いを込めてゆく度に、愛らしい産着が形になってゆく。元々、裁縫の得意な八重である。赤児の産着を縫うことくらい造作がなかった。
 背後の襖が開く気配がして、八重はハッと振り返る。嘉亨が手持ち無沙汰に立っていた。
 慌てて手をつかえる。ここのところしばらく耳にしなかった嘉亨の機嫌の良い声が降ってきた。
「身体の方は、もう、すっかり元どおりになったようだな」
「はい、お陰さまをもちまして、健やかになりましてございます」
 久しぶりの良人との語らいである。八重が緊張してしまうのも無理はなかった。だが、嘉亨は、それを妻の緊他人行儀なよそよそしい態度だと誤解してしまったようだ。
 にこやかであった表情が少し翳った。
 が、ここは折角見つけた話の糸口ゆえと思い直したように、殊更明るい声で言う。
「ホウ、産着を縫うておるのか? そう申せば、そちは裁縫の師匠が舌を巻くほどの腕であったな。一度、私の着物を縫うてはくれぬか」
「はい、殿のお好みの色柄の単布を見繕うて、早速取りかかろうと存じます」
 八重が勢い込んで言うと、嘉亨が笑った。
「なに、急ぐことはない。やっと身体が癒えたばかりではないか。私の着物を仕立てるのは、無事身二つになってからで一向に構わぬ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ