天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第12章 真実
「私なんて、尚姫さまに比べたら、所詮は花影の花、いいえ、野花どころか路傍の石ころも同然に色褪せて見えることでしょう。さようでございますとも、まるで平凡で取り柄のない、つまらない小娘にございます。しかしながら、殿、道端の石ころにも心はございます。心からお慕いする殿御が他の―しかも離別なされた前の奥方さまの面影をいまだに後生大切に抱いていらっしゃるのを平然と認めることができましょうか?」
「それは―違うぞ、八重」
嘉亨の声が上ずる。しかし、頭にすっかり血が上っている八重には、もうし嘉亨の言葉は届かない。
「お暇を下さりませ」
「八重、待て。私の申すことも少しは聞け」
「いいえ」
八重は両手をつかえて、頭を深々と下げた。
「短い間でございましたが、お世話になりましてございます」
「八重、そちは自分が申していることが判っておるのか?」
嘉亨が焦りの色を浮かべて問うても、八重は頷いた。
「よく存じております」
「そなた、ここを出て、いずこに参ると申すのだ?」
「先ほども申し上げましたごとく、仕立てで身を立てることも何とか叶いましょう。生まれてくる子と二人親子二人、江戸の町の片隅にてひっそりと暮らそうと思いまする」
「許さぬぞ」
嘉亨の瞳の奥で妖しい光が煌めいた。
「私は許さぬ。この私を置いて、そなたが出てゆくなど絶対に許さぬ」
「私は、誰の所有物でもございませぬ。たとえ殿の妻になっても、私の心は自由にございます」
「許さぬ、この屋敷を出ることなぞ許さぬ、何を血迷うたか、この慮外者めが!!」
「それは―違うぞ、八重」
嘉亨の声が上ずる。しかし、頭にすっかり血が上っている八重には、もうし嘉亨の言葉は届かない。
「お暇を下さりませ」
「八重、待て。私の申すことも少しは聞け」
「いいえ」
八重は両手をつかえて、頭を深々と下げた。
「短い間でございましたが、お世話になりましてございます」
「八重、そちは自分が申していることが判っておるのか?」
嘉亨が焦りの色を浮かべて問うても、八重は頷いた。
「よく存じております」
「そなた、ここを出て、いずこに参ると申すのだ?」
「先ほども申し上げましたごとく、仕立てで身を立てることも何とか叶いましょう。生まれてくる子と二人親子二人、江戸の町の片隅にてひっそりと暮らそうと思いまする」
「許さぬぞ」
嘉亨の瞳の奥で妖しい光が煌めいた。
「私は許さぬ。この私を置いて、そなたが出てゆくなど絶対に許さぬ」
「私は、誰の所有物でもございませぬ。たとえ殿の妻になっても、私の心は自由にございます」
「許さぬ、この屋敷を出ることなぞ許さぬ、何を血迷うたか、この慮外者めが!!」