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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第12章 真実

 嘉亨が吠え、八重に詰め寄った。
 嘉亨が勢いに任せて八重をその場に押し倒す。両手を持ち上げた形でその場に縫い止められた。帯を解こうとする嘉亨に、八重は愕き、渾身の力で抗った。
「乱暴は止めて下さい! 私のお腹には、殿の赤ちゃんが宿っているのですよ。それでもまだ、この間のようなご無体をなさるおつもりにございますか」
 忙しなく帯を解こうとしていた嘉亨の手がふっと止まる。
 八重は組み敷かれたままの恰好で、嘉亨を下から真っすぐに見つめた。
「どうしても私を抱きたいのなら、お好きになされば良い。でも、たとえ私の身体は自由にできても、心までは絶対に殿の自由にはなりませぬ。心のない抜け殻だけの女でよろしいのなら、お心のままに玩具になさればよろしいではございませんか」
「―」
 嘉亨の手が急速に力を失ってゆく。
 やがて、その手がゆっくりと離れた。ふっと身体が軽くなり、八重は男の拘束から解き放たれた。
 嘉亨が無表情にその場に佇んでいる。
 その切れ長の眼(まなこ)はまるで底なしの沼のように暗く、感情が一切窺えない。
 だが、その顔色は蒼白だった。
 八重は唇を痛いほどに噛みしめ、嘉亨に背を向ける。

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