天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第12章 真実
眼を逸らしては駄目だ。嘉亨は今こそ、すべてを吐き出そうとしている。その真摯な想いを、八重もまた誠実に受け止めねばならない。たとえ、それがどのように辛い真実であったとしても、知らねばならない。知らなければ、前には進めない。
「そなた、確か先刻、芙蓉の間のことを申しておったな。あの部屋に入ったのか?」
八重がかすかに頷くと、嘉亨は淡く微笑した。
「なるほど、さもありなん。それゆえ、私とお尚のことを気にしておったのだな。そなたは、その部屋の内をよく見たのか?」
「いいえ、あまりに愕いてしまって―、慌てて外に飛び出しましたゆえ」
正直に応えると、嘉亨は頷いた。
「さもあろうな。もう一度、よく自らの眼で確かめるが良い。あの掛け軸のすぐ傍らに小さな位牌が安置してある」
「お位牌―」
そこで、八重はハッとした。
「もしや、それは清冶郞君のお位牌にございますか」
「ああ、そのとおりだ」
「まあ、お尚が知れば、けして歓びはすまいが、私としては、この世で縁薄かった母と共にあの子をいさせてやりたいと思うての。あの子は、清冶郞は母を心から慕っていた。無もない、たった三つで生き別れたのだ。自分を棄てた母だと思えば、なおのこと慕情が募ったのであろう。思えば、つくづく哀れな子よ」
嘉亨はやり切れない様子で言い、弱々しく笑った。
「したが、そのことがどうやら、そなたに要らざる誤解をさせてしもうたようだ。まずは順を追って話そう」
嘉亨はわずかに眼をまたたかせた。
「そなたの思い違いについてだが、確かに私はお尚を愛していた時期もあった」
「そなた、確か先刻、芙蓉の間のことを申しておったな。あの部屋に入ったのか?」
八重がかすかに頷くと、嘉亨は淡く微笑した。
「なるほど、さもありなん。それゆえ、私とお尚のことを気にしておったのだな。そなたは、その部屋の内をよく見たのか?」
「いいえ、あまりに愕いてしまって―、慌てて外に飛び出しましたゆえ」
正直に応えると、嘉亨は頷いた。
「さもあろうな。もう一度、よく自らの眼で確かめるが良い。あの掛け軸のすぐ傍らに小さな位牌が安置してある」
「お位牌―」
そこで、八重はハッとした。
「もしや、それは清冶郞君のお位牌にございますか」
「ああ、そのとおりだ」
「まあ、お尚が知れば、けして歓びはすまいが、私としては、この世で縁薄かった母と共にあの子をいさせてやりたいと思うての。あの子は、清冶郞は母を心から慕っていた。無もない、たった三つで生き別れたのだ。自分を棄てた母だと思えば、なおのこと慕情が募ったのであろう。思えば、つくづく哀れな子よ」
嘉亨はやり切れない様子で言い、弱々しく笑った。
「したが、そのことがどうやら、そなたに要らざる誤解をさせてしもうたようだ。まずは順を追って話そう」
嘉亨はわずかに眼をまたたかせた。
「そなたの思い違いについてだが、確かに私はお尚を愛していた時期もあった」