天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第12章 真実
ああ、やはりと、八重の身体から力が抜けた。考えてみれば、今更ながらに思い当たる節はありすぎるほどあった。ただ、八重が現実から眼を背けていただけなのだ。
「八重、私には今、そなたが考えていることが手に取るように判る。そちは、私が今でもお尚を愛していると思い込んでおる。だが、それは断じて違うぞ」
「え―」
刹那、八重が眼を瞠った。
嘉亨の視線と八重の視線がぶつかる。それは、しばし絡み合い、離れた。
「私は今、何と言った? お尚を愛していた時期もあったと申したはずだぞ」
嘉亨は、そこで初めて緊張の糸が解けたように自然な笑みを浮かべた。そうだ、嘉亨は確かにそう言った。尚姫を今、愛しているのではなくて、愛した時期もあったのだと。
食い入るように嘉亨を見つめる八重に、嘉亨は本当に親が子に聞かせる昔語りのように淡々と話した。
嘉亨が話して聞かせたのは、八重が既に知っていることもあれば、知らぬこともあった。
だが、嘉亨の話のすべて、一言半句も聞き漏らすまいと八重は真摯に耳を傾けた。
嘉亨が尚姫を正室として迎えたのは、今を遡ること十二年前になる。当時、嘉亨が十八歳、尚姫は十七歳。二人共に美貌で知られていて、傍目には似合いの若い夫婦に見えた。
しかし、この結婚には最初から不幸の翳が纏わりついていた。新妻となった尚姫には、嫁ぐ前から悪しき風評があった。当時、遊学と称して尚姫の実家水野家に滞在していた藤原兼道と尚姫があろうことか恋仲であったというのだ。
「八重、私には今、そなたが考えていることが手に取るように判る。そちは、私が今でもお尚を愛していると思い込んでおる。だが、それは断じて違うぞ」
「え―」
刹那、八重が眼を瞠った。
嘉亨の視線と八重の視線がぶつかる。それは、しばし絡み合い、離れた。
「私は今、何と言った? お尚を愛していた時期もあったと申したはずだぞ」
嘉亨は、そこで初めて緊張の糸が解けたように自然な笑みを浮かべた。そうだ、嘉亨は確かにそう言った。尚姫を今、愛しているのではなくて、愛した時期もあったのだと。
食い入るように嘉亨を見つめる八重に、嘉亨は本当に親が子に聞かせる昔語りのように淡々と話した。
嘉亨が話して聞かせたのは、八重が既に知っていることもあれば、知らぬこともあった。
だが、嘉亨の話のすべて、一言半句も聞き漏らすまいと八重は真摯に耳を傾けた。
嘉亨が尚姫を正室として迎えたのは、今を遡ること十二年前になる。当時、嘉亨が十八歳、尚姫は十七歳。二人共に美貌で知られていて、傍目には似合いの若い夫婦に見えた。
しかし、この結婚には最初から不幸の翳が纏わりついていた。新妻となった尚姫には、嫁ぐ前から悪しき風評があった。当時、遊学と称して尚姫の実家水野家に滞在していた藤原兼道と尚姫があろうことか恋仲であったというのだ。