天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第2章 蓮華邂逅(れんかかいこう)
駄目で元々といった気で、八重は次の日、清冶郞に逢うときには手毬を持っていった。
―若君さま、今日は面白きものをご覧にいれようと持参いたしました。
八重が手のひらに載せて手毬を差し示すと、いつものように襖の陰に隠れた清冶郞がそっと顔だけを覗かせた。
―手毬にございますよ?
すると、どうだろう。あれほど八重を怖がっていた清冶郞がおっかなびっくりといった様子で身を乗り出したのだ。
―さ、お手にお持ちになってご覧なさいまし。
更に手毬を掲げて動かしてみると、清冶郞はまるで臆病な野兎が怖る怖る餌に近付いてくるようにやって来た。
手を伸ばしてきた清冶郞の小さな手のひらに手毬を載せてやると、清冶郞がつぶらな瞳で八重を見上げた。
―さ、どうぞ。
安心させるように微笑むと、清冶郞はにこっと笑った。それが、清冶郞が初めて見せた笑顔であった。その花の蕾が綻ぶような笑みを、八重は生涯忘れないと思った。それほどに、愛らしい笑顔であった。
その日を境にして、清冶郞は八重に心を少しずつ開き始めた。八重は春日井に教えられたように、けして急がず、ゆっくり時間をかけて清冶郞との距離を縮めていった。ひと月経った今では、清冶郞は八重にすっかり心を許し、片時も傍から離さないほどである。
―若君さま、今日は面白きものをご覧にいれようと持参いたしました。
八重が手のひらに載せて手毬を差し示すと、いつものように襖の陰に隠れた清冶郞がそっと顔だけを覗かせた。
―手毬にございますよ?
すると、どうだろう。あれほど八重を怖がっていた清冶郞がおっかなびっくりといった様子で身を乗り出したのだ。
―さ、お手にお持ちになってご覧なさいまし。
更に手毬を掲げて動かしてみると、清冶郞はまるで臆病な野兎が怖る怖る餌に近付いてくるようにやって来た。
手を伸ばしてきた清冶郞の小さな手のひらに手毬を載せてやると、清冶郞がつぶらな瞳で八重を見上げた。
―さ、どうぞ。
安心させるように微笑むと、清冶郞はにこっと笑った。それが、清冶郞が初めて見せた笑顔であった。その花の蕾が綻ぶような笑みを、八重は生涯忘れないと思った。それほどに、愛らしい笑顔であった。
その日を境にして、清冶郞は八重に心を少しずつ開き始めた。八重は春日井に教えられたように、けして急がず、ゆっくり時間をかけて清冶郞との距離を縮めていった。ひと月経った今では、清冶郞は八重にすっかり心を許し、片時も傍から離さないほどである。