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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第2章 蓮華邂逅(れんかかいこう)

 八重は清冶郞よりは九つも年上だが、七歳の清冶郞に真剣に引け目を感じてしまうこの頃である。何しろ、八重の容貌はどこを取っても、何一つ自慢できるものなどありはしない。
 とりわけ醜いといったわけでもないが、だからといって、けして美人という範疇に入るわけではない。色は確かに多少は白いかもしれないが、それにしたって、清冶郞と比べれば、白い中には入らないだろう。眼はきれいだと幼い時分から賞められることはあっても、やはり、この美少女と見紛うような若君とは比べるべくもない。
 要するに、すべてが平凡で、取り立てて衆に抜きん出たところがないのだ。所詮、この若君と自分を比べること自体が間違いなのだろう。
 性格にしても、自慢できるところなどない。内気で思ったことの一つ満足に言えないから、初対面の人にはとっつきにくいと言われる。お世辞にも、人好きのする質ではないのだ。
 この溜息は、清冶郞のあまりの愛らしさ、美しさへの感嘆のものである。
「凄いな、八重は何でも折れるんだな」
 横顔に見惚(みと)れていた時、突然、清冶郞がこちらを向いたので、八重は狼狽えた。
「母に教えて貰ったのです。私の母もよくこうやって色々なものを折ってくれました。もっとも、母は私が五つのときに病で亡くなりましたが」
 身体の弱かった母は起きているより、寝ている方が多かった。母に関する記憶はもう殆ど朧になってしまったが、だからこそ、一緒に遊んだ想い出はより鮮明に息づいている。
 布団に身を起こした母の傍で、母に教わりながら八重は色々なものの折り方を憶えた。
 母の白い手から次々と現れる蝶や鶴を、今の清冶郞のように瞳を輝かせて眺めたものだ。

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