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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第2章 蓮華邂逅(れんかかいこう)

「おかしいなとは思っていたんだ。冬でもないのに、よく風邪を引くし、すぐに疲れが出て熱を出して寝込んでしまう。でも、それは身体が弱いからだと信じ込んでいた。まさか、自分が―人並みに生きられぬ病に取り憑かれているだなんて考えたこともなかった」
 清冶郞は自嘲気味に呟いた。
 二人の腰元たちは、清冶郞がまだ午睡しているものと思い込み、内緒話に耽っていたらしい。浅慮といえばこれほど浅慮なふるまいはないが、これを耳にした清冶郞は衝撃のあまりカッとなって、その辺にあったものを手当たり次第、二人の腰元たちに投げつけ、大声で泣き喚いて暴れた。
 二人の腰元が相次いで暇を取ったのは、それからほどなくしてのことだった。
「不思議だな、あの二人が辞めてから、私付きの腰元は次々に代わって、八重でもう六人目だ。乳母や春日井に病のことについて訊ねても、何も応えず、ただ腫れ物に触るように私に必要以上に気を遣うだけ。あの腰元たちの話を聞いてからというもの、もう誰も信じられなくなっていたのに、八重だけは信じても良いような気がした。八重になら、本音が言える。―八重、私は本当は死にたくなぞないんだ。大きくなって父上の跡を継いで、木檜の人々のために良き藩主になりたい。父上をお助けして、木檜を良き藩にしたい。あんなことも、こんなことも、やりたいことは一杯ある。時々ふっと思うんだ。あの話はやっぱりただの嘘で、本当は私はどこも悪くはない、大きくなって、世の人のように自分の天命をまっとうできるのではないかと」
 清冶郞の白い頬を大粒の涙がころがり落ちてゆく。八重は、その涙に心を打たれた。
 わずか七歳の幼子が死にたくないと泣いている。
 八重は何かどんなことでも良いから、自分にできることはないかと真剣に考えた。
 そして、ふと思い出したものがあった。

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