天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第2章 蓮華邂逅(れんかかいこう)
「それでは、私がこれから若君さまに、元気になるおまじないをして差し上げます」
八重は清冶郞に眼を瞑るようにと言った。
清冶郞がやや不安げな顔で眼を閉じる。その間、八重は懐から小さな招き猫を取り出し、手のひらに載せた。ひと月余り前、この屋敷に来る前、道端で拾った根付けである。
「それでは、よろしうございますか? 眼をお開け下さいませ」
八重が念を押すように言うと、清冶郞はそっと眼を開く。
八重は招き猫を清冶郞の鼻先に近付けた。
刹那、清冶郞が疑わしそうに首をひねった。
「これが―?」
八重は大真面目な表情を作り、わざと渋面で言った。
「はい、この招き猫は、私の伯父が古道具屋で見つけた品にて、道具屋の主の話によれば、唐(から)の何とかいう有名な徳のあるお坊さまの持ち物だったとか。この根付けを身に付けていると、寿命が倍―いえ、三倍に伸びるといわれているご利益のあるものだそうにございます」
若君の瞳に光が戻った。
「本当か? これを持っていれば、真に元気になれるのか」
むろん、八重の話は嘘も大嘘である。しかし、気弱になって落ち込んでいる若君を力づけるためには、これくらいのはったりは許されるのではないか―と、八重は本気で考えていた。
「八重の伯父はよほど八重のことを大切にしていたのだな。それほどにたいそうな品をあっさりとそなたにくれてやったのだから。八重は、当家に奉公に参るまでは、その伯父の許にいたのであろう?」
清冶郞の無邪気な発言に、八重の胸はちくりと痛んだ。弐兵衛が自分を大切に思っていたなんて、とんでもない。義理の伯母おすみほどではないにせよ、弐兵衛もまた八重を厄介者のお荷物としか見てはいなかったのは明白だ。
八重は清冶郞に眼を瞑るようにと言った。
清冶郞がやや不安げな顔で眼を閉じる。その間、八重は懐から小さな招き猫を取り出し、手のひらに載せた。ひと月余り前、この屋敷に来る前、道端で拾った根付けである。
「それでは、よろしうございますか? 眼をお開け下さいませ」
八重が念を押すように言うと、清冶郞はそっと眼を開く。
八重は招き猫を清冶郞の鼻先に近付けた。
刹那、清冶郞が疑わしそうに首をひねった。
「これが―?」
八重は大真面目な表情を作り、わざと渋面で言った。
「はい、この招き猫は、私の伯父が古道具屋で見つけた品にて、道具屋の主の話によれば、唐(から)の何とかいう有名な徳のあるお坊さまの持ち物だったとか。この根付けを身に付けていると、寿命が倍―いえ、三倍に伸びるといわれているご利益のあるものだそうにございます」
若君の瞳に光が戻った。
「本当か? これを持っていれば、真に元気になれるのか」
むろん、八重の話は嘘も大嘘である。しかし、気弱になって落ち込んでいる若君を力づけるためには、これくらいのはったりは許されるのではないか―と、八重は本気で考えていた。
「八重の伯父はよほど八重のことを大切にしていたのだな。それほどにたいそうな品をあっさりとそなたにくれてやったのだから。八重は、当家に奉公に参るまでは、その伯父の許にいたのであろう?」
清冶郞の無邪気な発言に、八重の胸はちくりと痛んだ。弐兵衛が自分を大切に思っていたなんて、とんでもない。義理の伯母おすみほどではないにせよ、弐兵衛もまた八重を厄介者のお荷物としか見てはいなかったのは明白だ。