天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第1章 第一話〝招き猫〟―旅立ち―
父の死後数日を経ぬ間に高利貸しが現れ、父に貸したはずの金を返せと言ってきて、それもまた弥栄には晴天の霹靂であった。父は白妙を身請けするために、高利で多額の借金をしていた。どうも、弥栄が考えているほど、紙絃の商いは順調ではなかったらしい。店の体面を維持するのが精一杯といったところで、吉原の太夫を身請けするだけの余裕はなかった。
なのに、無理をして高利にまで手を出したせいで、絃七は思わぬ借金を抱えてしまうことになった。が、金の工面ができたときには、白妙は既に旗本の若さまに身請けされることが決まっていたのだ。絶望した二人は、行き場を失って心中―と走ったらしい。
更に、弥栄にとっては不幸な出来事が続いた。頼りにすべき大番頭常吉が心労のあまり、体調を崩して寝込んでしまった。常吉は先代、つまり絃七の父の代から長らく奉公している忠義一徹の老人であった。暖簾分けの話が幾度も出たにも拘わらず、それを固辞して、六十近くになるまでひたすら店のために尽くしてきたのである。
常吉は通いであったが、到底、商売に復帰することは叶わなくなった。常吉の代わりとなって店を支えるはずの番頭彌市は絃七の初七日の翌日、店に残っていた有り金すべてを持ち出し、姿を消した。このことで、弥栄の将来は絶望的になった。残る奉公人たちはすべて暇を取り、店を去っていった。
店を閉めたその日、借金取りと女衒がどこからともなく現れ、弥栄はそのまま吉原に連れてゆかれるはずであった。しかし、救いの神はどこかにいるもので、平素は殆ど付き合いのなかった父の兄弐兵衛が弥栄を引き取った。
なのに、無理をして高利にまで手を出したせいで、絃七は思わぬ借金を抱えてしまうことになった。が、金の工面ができたときには、白妙は既に旗本の若さまに身請けされることが決まっていたのだ。絶望した二人は、行き場を失って心中―と走ったらしい。
更に、弥栄にとっては不幸な出来事が続いた。頼りにすべき大番頭常吉が心労のあまり、体調を崩して寝込んでしまった。常吉は先代、つまり絃七の父の代から長らく奉公している忠義一徹の老人であった。暖簾分けの話が幾度も出たにも拘わらず、それを固辞して、六十近くになるまでひたすら店のために尽くしてきたのである。
常吉は通いであったが、到底、商売に復帰することは叶わなくなった。常吉の代わりとなって店を支えるはずの番頭彌市は絃七の初七日の翌日、店に残っていた有り金すべてを持ち出し、姿を消した。このことで、弥栄の将来は絶望的になった。残る奉公人たちはすべて暇を取り、店を去っていった。
店を閉めたその日、借金取りと女衒がどこからともなく現れ、弥栄はそのまま吉原に連れてゆかれるはずであった。しかし、救いの神はどこかにいるもので、平素は殆ど付き合いのなかった父の兄弐兵衛が弥栄を引き取った。