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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第2章 蓮華邂逅(れんかかいこう)

 あのときの清冶郞の顔は、恐怖に引きつっていた。大年寄りならともかくわずか七歳で死の恐怖と日々、直面している。そんな清冶郞が不憫で、見ていられなかった。
 今も、大方は何か―多分、彼が怖れる死に神に違いない―に追いかけられる夢を見ているのだろう。
「来るな、私を連れていくな」
 呟き続ける清冶郞を痛々しい想いで眺めながら、八重は唇を噛んだ。
―若君さまを死に神になぞ連れてゆかせるものか!
 八重は清冶郞を抱きしめ、その耳許で囁いた。
「若君さま、私が、八重がいつまでもお傍におりまする。死に神が参っても、この八重が追い返して見せまするゆえ、ご安堵召されてお眠りあそばせ」
 八重がずっと同じことを囁き続けていると、清冶郞はいつしか規則正しい寝息を立て始めた。その端整な顔から苦悶は消え、まだ涙の溜まった瞳で眠る顔は、どこまでもあどけない。まだまだ、母の恋しい歳なのだ。
 尚姫は、このようなお可愛らしい若君を何故、置き去りにして実家に戻ることができたのだろう。もし、仮に八重が尚姫の立場なら、たとえ我が生命に代えても、清冶郞の生命を守り通そうと努力するはずだ。
 清冶郞の長い睫に涙の雫が宿っている。八重は手を伸ばすと、そっと指先で涙をぬぐった。清冶郞の涙をぬぐう八重の頬もまた熱い雫に濡れていた。
 
 それから更にひと月を経た。
 清冶郞はますます八重に懐き、最早、八重なしでは一日も過ごせないほどのお気に入りとなった。八重がちょっとでも傍を離れると、「八重、八重はどこにいる」
 と泣きながら探し回る有り様である。

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