天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第2章 蓮華邂逅(れんかかいこう)
男―嘉亨が視線を清冶郞に向けると、清冶郞が涙の残った眼をこすりながらも駆け出した。
「父上!」
「ここに来る前に、そなたの部屋に立ち寄ったのだが、生憎と誰もおらぬ。春日井が色を失って探し回っておったぞ。多分、伴回りの者と庭にでも出たのであろうゆえ、心配するには及ばぬと申してはきたのだが」
「あ―」
八重は蒼白になった。春日井に黙って部屋を抜け出したのだが、もう見つかってしまったのか。それもそうだろう、ここに来る前には長居をするつもりはなかったのに、花の美しさと風の心地良さに酔いしれ、刻を忘れてしまった。
「も、申し訳もござりませぬ。すべては私の責めにございます。おん大切な若君さまをこのように連れ出して」
八重は土下座して、ひたすら謝った。
「良いのだ。清冶郞にもたまには外の空気を吸うことが必要であろう。春日井が清冶郞を大事に思う気持ちは判るが、あれは、ちと構い過ぎる。これでは、清冶郞が余計に軟弱になってしまおうぞ」
嘉亨はそう言うと、飛びついてきた清冶郞を抱き上げた。
「先刻から少し離れて、そなたたちを見ていた。いつも淋しそうにしていたこの子がこのように愉しげにしているのを初めて見た」
嘉亨のその嬉しげな表情は、三万石の大名というよりは、子を思う父親の顔でしかなかった。整った貌を綻ばせ、息子を愛おしげに見つめる嘉亨の顔が何故か、八重の心に鮮烈な印象を残した。
「父上、八重もこの蓮の花を気に入ったようにございます」
清冶郞がはしゃいで報告すると、嘉亨は笑いながら頷いた。
「父上!」
「ここに来る前に、そなたの部屋に立ち寄ったのだが、生憎と誰もおらぬ。春日井が色を失って探し回っておったぞ。多分、伴回りの者と庭にでも出たのであろうゆえ、心配するには及ばぬと申してはきたのだが」
「あ―」
八重は蒼白になった。春日井に黙って部屋を抜け出したのだが、もう見つかってしまったのか。それもそうだろう、ここに来る前には長居をするつもりはなかったのに、花の美しさと風の心地良さに酔いしれ、刻を忘れてしまった。
「も、申し訳もござりませぬ。すべては私の責めにございます。おん大切な若君さまをこのように連れ出して」
八重は土下座して、ひたすら謝った。
「良いのだ。清冶郞にもたまには外の空気を吸うことが必要であろう。春日井が清冶郞を大事に思う気持ちは判るが、あれは、ちと構い過ぎる。これでは、清冶郞が余計に軟弱になってしまおうぞ」
嘉亨はそう言うと、飛びついてきた清冶郞を抱き上げた。
「先刻から少し離れて、そなたたちを見ていた。いつも淋しそうにしていたこの子がこのように愉しげにしているのを初めて見た」
嘉亨のその嬉しげな表情は、三万石の大名というよりは、子を思う父親の顔でしかなかった。整った貌を綻ばせ、息子を愛おしげに見つめる嘉亨の顔が何故か、八重の心に鮮烈な印象を残した。
「父上、八重もこの蓮の花を気に入ったようにございます」
清冶郞がはしゃいで報告すると、嘉亨は笑いながら頷いた。