天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第1章 第一話〝招き猫〟―旅立ち―
伊予屋に引き取られた弥栄は、身分こそ弐兵衛の養女となったが、扱いは女中と変わらない。流石に女中部屋に追いやられることこそなかったものの、納戸として使われていたような狭くて陽当たりのよくない部屋を与えられ、毎日、廊下といわず庭といわず、店中の掃除をさせられた。
伊予屋では食事も主夫婦と奉公人は別々の部屋で取る。食事の献立もまた大きな差があった。八重は伯父たちとではなく、奉公人に混じって大部屋で食事を取った。むろん、食事も使用人と同じものである。
元々、伊予屋はこじんまりとした、中規模どころの店だ。使用人の数も紙絃の半分にも満たず、その割には店の方は繁盛していたから、猫の手も借りたいほどであったのだ。そこに引き取られた弥栄は恰好の使いやすい女中代わりとなった。
いや、元々、弐兵衛にしろその女房おすみにしろ、そのつもりで弥栄を引き取ったのだろう。今回、絃七の残した借金を肩代わりするのは小体な店にしては相当の無理をしたはずで、下手をすれば、伊予屋までもが巻き添えを食って共倒れになる危険性さえあった。それを敢えてしたからには、弥栄には女中代わりくらいして貰わなければ、危ない橋を渡った採算が取れないとでも思っているのは確かだ。
弐兵衛の目論見は当たり、伊予屋の主人は放蕩で身代を駄目にした絃七(と、世間ではそのように取り沙汰されている)の多額の借金をきれいに肩代わりしたばかりか、あわや苦界に身を沈めるところであった絃七の娘を救ったと世間では世にも稀な情に厚い人物と噂された。
伊予屋では食事も主夫婦と奉公人は別々の部屋で取る。食事の献立もまた大きな差があった。八重は伯父たちとではなく、奉公人に混じって大部屋で食事を取った。むろん、食事も使用人と同じものである。
元々、伊予屋はこじんまりとした、中規模どころの店だ。使用人の数も紙絃の半分にも満たず、その割には店の方は繁盛していたから、猫の手も借りたいほどであったのだ。そこに引き取られた弥栄は恰好の使いやすい女中代わりとなった。
いや、元々、弐兵衛にしろその女房おすみにしろ、そのつもりで弥栄を引き取ったのだろう。今回、絃七の残した借金を肩代わりするのは小体な店にしては相当の無理をしたはずで、下手をすれば、伊予屋までもが巻き添えを食って共倒れになる危険性さえあった。それを敢えてしたからには、弥栄には女中代わりくらいして貰わなければ、危ない橋を渡った採算が取れないとでも思っているのは確かだ。
弐兵衛の目論見は当たり、伊予屋の主人は放蕩で身代を駄目にした絃七(と、世間ではそのように取り沙汰されている)の多額の借金をきれいに肩代わりしたばかりか、あわや苦界に身を沈めるところであった絃七の娘を救ったと世間では世にも稀な情に厚い人物と噂された。