天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第3章 雨の日の出来事
だとすれば、嘉亨は三歳で実母に棄てられた清冶郞に比べれば、よほど幸せだったのかもしれない。
改めて今の清冶郞の境涯が身につまされた。
緊張のあまり、動作もぎごちない八重に、嘉亨が苦笑いを浮かべた。
「そのように堅苦しうなるな。清冶郞からいつもそなたの話を聞いておったゆえ、私までもがそなたのことをよく知っているような気がしてならぬのだ。これまで、あの子は乳母にでさえ心を開いたことはなかった。それが、八重、そなたにだけは心を開き、姉のように慕うておる。そなたが来てから、清冶郞は真に明るくなった。子どもらしう、瞳が生き生きと輝いている。先日も申したが、私は清冶郞の父親としてあの子の変わりようが何より嬉しいのだ。一度、そなたにちゃんと礼を言い、その労をねぎらいたいと思うていた」
「あまりに畏れ多いお言葉にございます。私は若君さまお付きの者として当然のことをしているだけにございます。そのようにお褒め頂くほどのことは致しておりませぬゆえ」
八重が慌てて言うと、嘉亨が声を立てて笑う。
「清冶郞は、そなたがよく喋る朗らかな娘だと言うたぞ。さりながら、今日のそなたは、ろくに喋らぬ。どうも、よほど固くなっておるようだ」
「い、いえ、私はそのようにお喋りではございませ―」
言いかけて、八重はまともに嘉亨の眼を見てしまった。
深い、深い瞳。幾つもの夜を集めたような瞳に思わず見惚れた。
「そなたは不思議な女だ」
嘉亨がふっと呟いた。
改めて今の清冶郞の境涯が身につまされた。
緊張のあまり、動作もぎごちない八重に、嘉亨が苦笑いを浮かべた。
「そのように堅苦しうなるな。清冶郞からいつもそなたの話を聞いておったゆえ、私までもがそなたのことをよく知っているような気がしてならぬのだ。これまで、あの子は乳母にでさえ心を開いたことはなかった。それが、八重、そなたにだけは心を開き、姉のように慕うておる。そなたが来てから、清冶郞は真に明るくなった。子どもらしう、瞳が生き生きと輝いている。先日も申したが、私は清冶郞の父親としてあの子の変わりようが何より嬉しいのだ。一度、そなたにちゃんと礼を言い、その労をねぎらいたいと思うていた」
「あまりに畏れ多いお言葉にございます。私は若君さまお付きの者として当然のことをしているだけにございます。そのようにお褒め頂くほどのことは致しておりませぬゆえ」
八重が慌てて言うと、嘉亨が声を立てて笑う。
「清冶郞は、そなたがよく喋る朗らかな娘だと言うたぞ。さりながら、今日のそなたは、ろくに喋らぬ。どうも、よほど固くなっておるようだ」
「い、いえ、私はそのようにお喋りではございませ―」
言いかけて、八重はまともに嘉亨の眼を見てしまった。
深い、深い瞳。幾つもの夜を集めたような瞳に思わず見惚れた。
「そなたは不思議な女だ」
嘉亨がふっと呟いた。