天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第3章 雨の日の出来事
再び沈黙が落ちる。しかし、今度の沈黙は長くは続かなかった。
「清冶郞は、そなたを嫁にと望んでいる。あれはまだ幼いが、あの歳で幼いになりに、そなたとのことを真剣に考えているようだ」
嘉亨から例の〝妻に云々〟の話まで持ち出され、八重は更に赤くなった。
もう、穴があったら入りたい。このことでは、清冶郞を恨めしく思った。
―何もお殿さまにあのようなことを申し上げることはないのに。
「私は普段、このように喋ることはない。清冶郞同様、愚直ともいえるほど己れの感情を表に出すことのできぬ人間だ。だが、面妖なことに、そなたといると、こうして人が変わったように話ができる。自分の心の内をすらすらと口にすることができる。正直、自分でも愕いている」
また、沈黙。
八重はうつむいていても、嘉亨の視線が自分に注がれているのが判った。
「清冶郞の気持ちはよく判る。私も八重と共にいると、心が安らぐ。そなたには、どうやら一緒にいる者の心を癒やす不思議な力があるようだ。清冶郞の奴、八重は手妻のように折り紙で蝶や蛙を作ると申しておったが、そなたは、やはり何かの手妻を使うのであろうか」
嘉亨の視線が熱い。
八重は、熟した林檎のように頬を染めながら、首を振った。
「私は手妻など使いませぬ。ただ、若君さまがあまりにお労しくてならぬゆえ、若君さまのお心が少しでも晴れれば良いと思うて、私なりに一生懸命、日々お仕え参らせておりまする」
「もし、私が清冶郞からそなたを奪うと申したら、そなたは、いかがする?」
「え―」
八重は、一瞬、何かの聞き違いかと思った。
「清冶郞は、そなたを嫁にと望んでいる。あれはまだ幼いが、あの歳で幼いになりに、そなたとのことを真剣に考えているようだ」
嘉亨から例の〝妻に云々〟の話まで持ち出され、八重は更に赤くなった。
もう、穴があったら入りたい。このことでは、清冶郞を恨めしく思った。
―何もお殿さまにあのようなことを申し上げることはないのに。
「私は普段、このように喋ることはない。清冶郞同様、愚直ともいえるほど己れの感情を表に出すことのできぬ人間だ。だが、面妖なことに、そなたといると、こうして人が変わったように話ができる。自分の心の内をすらすらと口にすることができる。正直、自分でも愕いている」
また、沈黙。
八重はうつむいていても、嘉亨の視線が自分に注がれているのが判った。
「清冶郞の気持ちはよく判る。私も八重と共にいると、心が安らぐ。そなたには、どうやら一緒にいる者の心を癒やす不思議な力があるようだ。清冶郞の奴、八重は手妻のように折り紙で蝶や蛙を作ると申しておったが、そなたは、やはり何かの手妻を使うのであろうか」
嘉亨の視線が熱い。
八重は、熟した林檎のように頬を染めながら、首を振った。
「私は手妻など使いませぬ。ただ、若君さまがあまりにお労しくてならぬゆえ、若君さまのお心が少しでも晴れれば良いと思うて、私なりに一生懸命、日々お仕え参らせておりまする」
「もし、私が清冶郞からそなたを奪うと申したら、そなたは、いかがする?」
「え―」
八重は、一瞬、何かの聞き違いかと思った。