天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第3章 雨の日の出来事
意識が徐々に覚醒してゆくのは、水中深く潜っていたのが急にぽっかりと水面に顔を出したときの感覚に似ている。
打ち伏して眠っていた八重は、ゆるゆると身を起こし、首をめぐらせた。
「八重、八重」
確かに誰かが私を呼んでいる。
八重はいまだ完全には覚めやらぬ頭を眠気を払うように軽く振った。
「―八重」
懐かしい呼び声に、八重は眼を軽く瞠る。
気が付けば、清冶郞が褥の上に身を起こしていた。
「若君さまっ?」
八重の視線と清冶郞の視線が交わった。
黒いつぶらな瞳が八重を見つめている。
―ああ、やはり似ている。
八重は、嘉亨とあまりに酷似している清冶郞の瞳を直視できなかった。
そっと視線を逸らした八重の態度にも清冶郞は不審を抱かなかったようだ。
「済まぬ、心配をかけてしまった」
優しい清冶郞の言葉が心に滲みる。
「私が寝込んだばかりに、また春日井に叱られたのではないか?」
その問いに、八重は首を振った。
「いいえ、春日井さまは若君さまをお庭にお連れした日は確かにご立腹なされましたけれど、その後は一度も何も仰せではございませんでした。ただ、お寝みになっている若君さまをご心配そうにご覧になっておいででございました」
春日井とは、そういう女であった。そのときはきつく叱っても、後々までねちねちと嫌味や小言を繰り返すような性格ではない。
「そうか。それならば良かった」
清冶郞は幾度も頷いた。
打ち伏して眠っていた八重は、ゆるゆると身を起こし、首をめぐらせた。
「八重、八重」
確かに誰かが私を呼んでいる。
八重はいまだ完全には覚めやらぬ頭を眠気を払うように軽く振った。
「―八重」
懐かしい呼び声に、八重は眼を軽く瞠る。
気が付けば、清冶郞が褥の上に身を起こしていた。
「若君さまっ?」
八重の視線と清冶郞の視線が交わった。
黒いつぶらな瞳が八重を見つめている。
―ああ、やはり似ている。
八重は、嘉亨とあまりに酷似している清冶郞の瞳を直視できなかった。
そっと視線を逸らした八重の態度にも清冶郞は不審を抱かなかったようだ。
「済まぬ、心配をかけてしまった」
優しい清冶郞の言葉が心に滲みる。
「私が寝込んだばかりに、また春日井に叱られたのではないか?」
その問いに、八重は首を振った。
「いいえ、春日井さまは若君さまをお庭にお連れした日は確かにご立腹なされましたけれど、その後は一度も何も仰せではございませんでした。ただ、お寝みになっている若君さまをご心配そうにご覧になっておいででございました」
春日井とは、そういう女であった。そのときはきつく叱っても、後々までねちねちと嫌味や小言を繰り返すような性格ではない。
「そうか。それならば良かった」
清冶郞は幾度も頷いた。