天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第3章 雨の日の出来事
優しい少年だ。病に伏しながらも、自分のことより八重の心配をしてくれる。このような気遣いのできるところも、やはり父である嘉亨に似ているのだろう。
「よろしうございました、本当に良かった」
八重の眼から大粒の涙が次々にしたたり落ちる。安堵と嬉しさが同時に込み上げて、余計に泣けてくる。
「八重のお陰だ。八重がいつも傍にいてくれたお陰で、私は現世に還ってこられたような気がしてならぬ。八重、私はずっと夢を見ていたんだ」
「夢―にございますか?」
「ああ、夢の中で、私は奥庭のあの池の傍にいた。ほら、八重と一緒に蓮を眺めたあの池だよ。私は岸辺に立って、ずっと八重が来るのを待っているんだ。でも、八重は一向に現れない。だけど、不思議なことに、ずっと待ち続けていたら、やっと八重が向こう岸に現れた。夢の中で八重は私に向かって手を差しのべる。本当なら到底届くはずのない距離なのに、私が少し身を乗り出したら、向こう岸の八重の手に届いた。八重が私の手を強く引いたと思ったその時、ふっと身体が軽くなったような気がして、眼が覚めたんだ。今は随分と気分も良い」
八重は、愕然とした。
清冶郞の見た夢と八重の見た夢はよく似ている。だが、微妙に違う点もあるのは確かだ。
八重が夢で待っていたのは、清冶郞ではなくその父嘉亨であった。だが、清冶郞が待っていたのは八重であったという。
これは、何を意味するのだろうか。
八重の眼前で夢の中の嘉亨は、霧に包まれて見えなくなってしまった。あれは、やはり、八重には嘉亨が縁のない高嶺の花である―という暗示なのか。幾ら想っても、けして実ることはないと、夢が告げていたのだろうか。
「ありがとう、八重。八重は私の生命の恩人だ」
「よろしうございました、本当に良かった」
八重の眼から大粒の涙が次々にしたたり落ちる。安堵と嬉しさが同時に込み上げて、余計に泣けてくる。
「八重のお陰だ。八重がいつも傍にいてくれたお陰で、私は現世に還ってこられたような気がしてならぬ。八重、私はずっと夢を見ていたんだ」
「夢―にございますか?」
「ああ、夢の中で、私は奥庭のあの池の傍にいた。ほら、八重と一緒に蓮を眺めたあの池だよ。私は岸辺に立って、ずっと八重が来るのを待っているんだ。でも、八重は一向に現れない。だけど、不思議なことに、ずっと待ち続けていたら、やっと八重が向こう岸に現れた。夢の中で八重は私に向かって手を差しのべる。本当なら到底届くはずのない距離なのに、私が少し身を乗り出したら、向こう岸の八重の手に届いた。八重が私の手を強く引いたと思ったその時、ふっと身体が軽くなったような気がして、眼が覚めたんだ。今は随分と気分も良い」
八重は、愕然とした。
清冶郞の見た夢と八重の見た夢はよく似ている。だが、微妙に違う点もあるのは確かだ。
八重が夢で待っていたのは、清冶郞ではなくその父嘉亨であった。だが、清冶郞が待っていたのは八重であったという。
これは、何を意味するのだろうか。
八重の眼前で夢の中の嘉亨は、霧に包まれて見えなくなってしまった。あれは、やはり、八重には嘉亨が縁のない高嶺の花である―という暗示なのか。幾ら想っても、けして実ることはないと、夢が告げていたのだろうか。
「ありがとう、八重。八重は私の生命の恩人だ」