天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第3章 雨の日の出来事
清冶郞がはにかんだような笑みを浮かべた。
「連日の看病で疲れているのではないか。私はもう大丈夫ゆえ、そなたも少し横になれ」
八重は改めて今が夜更けであることを確認した。障子越しに細く月の光が部屋内にまで差し込んでいる。外は薄暗かったが、誰かが来て行灯に火を入れたものか、寝所は仄明るかった。
夕刻まで降っていた雨は既に止んだらしい。
「申し訳もございませぬ。私としたことが、どうやら宵からずっと眠りこけていたようにございます」
確か代わりの腰元と交替したのが夕刻を少し回ったばかりの頃であった。あれからすぐに意識が途切れているから、交替直後に眠ってしまったのだろう。病人の看護をしている身としては、大いなる失態であった。
「構わぬ。私が寝込んでいた日数を思えば、そなたが疲れぬ方が不思議だ」
清冶郞は優しく言う。
八重は、枕許から招き猫の根付けを拾い上げた。
「若君さま、私はこの招き猫にお願いを致しました。若君さまのご病気が一日も早く快癒しますように、お熱が下がりますようにと一生懸命お祈りしました。招き猫はどうやら、真に願いを聞き届けてくれたようにございます」
八重は言い終え、根付けをそっと清冶郞の手に握らせた。清冶郞の手のひらごと招き猫を自分の手で包み込む。
「これは、やはり清冶郞さまがお持ちになっては頂けませぬか。これからは、この猫が若君さまをお守りしてくれましょう。何しろ、寿命が三倍にも伸びるご利益ある猫にございますゆえ」
「―あい判った。八重の心、ありがたく受け取らせて貰う」
「連日の看病で疲れているのではないか。私はもう大丈夫ゆえ、そなたも少し横になれ」
八重は改めて今が夜更けであることを確認した。障子越しに細く月の光が部屋内にまで差し込んでいる。外は薄暗かったが、誰かが来て行灯に火を入れたものか、寝所は仄明るかった。
夕刻まで降っていた雨は既に止んだらしい。
「申し訳もございませぬ。私としたことが、どうやら宵からずっと眠りこけていたようにございます」
確か代わりの腰元と交替したのが夕刻を少し回ったばかりの頃であった。あれからすぐに意識が途切れているから、交替直後に眠ってしまったのだろう。病人の看護をしている身としては、大いなる失態であった。
「構わぬ。私が寝込んでいた日数を思えば、そなたが疲れぬ方が不思議だ」
清冶郞は優しく言う。
八重は、枕許から招き猫の根付けを拾い上げた。
「若君さま、私はこの招き猫にお願いを致しました。若君さまのご病気が一日も早く快癒しますように、お熱が下がりますようにと一生懸命お祈りしました。招き猫はどうやら、真に願いを聞き届けてくれたようにございます」
八重は言い終え、根付けをそっと清冶郞の手に握らせた。清冶郞の手のひらごと招き猫を自分の手で包み込む。
「これは、やはり清冶郞さまがお持ちになっては頂けませぬか。これからは、この猫が若君さまをお守りしてくれましょう。何しろ、寿命が三倍にも伸びるご利益ある猫にございますゆえ」
「―あい判った。八重の心、ありがたく受け取らせて貰う」