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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第3章 雨の日の出来事

 八重がそっと手を放すと、清冶郞は招き猫を大切そうに懐にしまった。
 それからしばらくの間、清冶郞は何やら思案に耽っているようだった。
「八重」
 ふいに名を呼ばれ、八重は眼を見開いた。
「はい?」
 黒い瞳がじいっと見つめている。
 清冶郞は少しの躊躇いを見せてから、思い切ったようにひと息に言った。
「この間の話、私は本気だ」
「―」
「八重を妻に迎えたいという話のことだよ。八重、良いね? 私が十五になるまで、どこにも行かずに待っていてくれ。そして、一生、私の傍にいて欲しい」
 縋るような瞳が八重に向けられている。
 八重は、その時、清冶郞を突き放すことはできなかった。
 たった七歳の子どもの他愛ない戯れ言ではないか。夢はいつか覚めるときがくる。それまでこの少年に夢を与え続けるのも必要なのかもしれない。
「はい」
 八重が頷くと、清冶郞は嬉しげに頷いた。
 結局、清冶郞はそれからほどなく、再び眠りに落ちていった。
 八日もの間、ろくに飲まず食わずで殆ど眠りっ放しだったのだ。体力はかなり落ちているはずだった。明日の朝からは粥でもこしらえて、栄養のあるものをたくさん召し上がって貰わねばならない。
 安心しきった表情で眠る清冶郞を、八重は姉のような気持ちでいつまでも眺めていた。

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